さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

『このマンガがすごい!2007オトコ版』より『鈴木先生』(武富健治)

このマンガがすごい! 2007・オトコ版』なんですけど、ランキングベストテンは

  1. デトロイト・メタル・シティ
  2. デスノート
  3. へうげもの
  4. 鈴木先生
  5. シグルイ
  6. わにとかげぎす
  7. ボーイズ・オン・ザ・ラン
  8. BLACK LAGOON
  9. 闇金ウシジマくん
  10. もやしもん

こうでした。
個人的な話をすると、僕はベストテン中8つはコミックス全部読んだし連載も追ってるので(雑誌の立ち読みと漫画喫茶だけが楽しみで生きているような人間です)(キン肉マンばっかり読んでるわけじゃないというアピールです)、人並み以上には漫画好きだと自分では思ってたんですが、4位の『鈴木先生』(武富健治)と8位の『BLACK LAGOON』(広江礼威)は全くのノーマークでした。だって漫画喫茶に置いてないし、連載誌もそれぞれアクションとサンデーGXだし・・・。その辺も開拓しようと思います。

というわけで、早速『鈴木先生』を買ってみました。結論から言うと、確かにこりゃあ今年のベストテンに入るなあ、という感じ。

どんな漫画なの?と聞かれれば、まずは「学校モノ」というしかないんですよ。破天荒でもなんでもないただマジメなだけ(でもたまに生徒に欲情する凡人)の教師が主人公だし、学校で起きる騒動も特に現代を鋭く切り取ったわけでもなく「給食の酢豚が不人気なので無くすかどうか」とかの普通の問題(でもそれゆえにリアル)だしで、話題にはなりづらいとは思うんですが、表現や構成が巧みなので非常に読ませる。「主人公の教師が元ヤンキー」みたいなキャッチーさはない分、細部で勝負してる感じ。だけどそれでも「ものすごく新しい漫画を読んでいる!」という衝撃を味わえる快作です。

「新しい漫画」とは言っても、読後感としてはサスペンスもの・推理ものに似ているかもしれません。
「中学校で起こる様々な問題を生徒やその親と話しながら解決する」というだけのアウトラインだけ見れば、金八先生に代表される感じのクラシカルな教師モノなんですが、それでもサスペンスになるのがすごい。


ある日突然、給食中に下品な言葉で周囲に嫌がらせを始めた男子。果たしてその原因は?第1話「げりみそ」。
みんなが酢豚を残すので、献立から酢豚が消えるかもしれない!「酢豚を献立から外すべきか」で全校が揺れる第2話「酢豚」。
同級生の妹(小4)とセックスしたのが親にバレた!中学生の性を描く第3話「教育的指導」。
それぞれが前・後編に別れた全6話が1巻です。あ、前・後編がそれぞれ事件編と解決編に分かれているのも推理ものっぽいかもしれません。

主な流れとして、まず問題が起こります。それに対して主人公の鈴木先生は、ただひたすらマジメに考えることで立ち向かうんですよ。別に天才とかじゃなく、ただ誠実に思索を巡らせるのがいいです。この「誠実」というのがこの漫画ではキーワードかもしれません。

しかも「どうしてこれが問題なのか」を最初は直感でなんとなく気づいてるだけなのに、それが段々と明確に言語化されていくのが非常に気持ちいいです。
「今さっきふと思いついただけの・・・可能性のたった一つに過ぎない中村原因説を・・・オレはなぜかほとんど確信している・・・!」


そして独特の言い回しのモノローグと独特の絵がサスペンスっぽさを生み出します。
「俺はなんとしても今日!真実にたどり着かなければならないんだ」
給食の話とかなのにテンションあがる。


理詰めでまわりを説得し、そして訪れる「謎が全て解けた!」という感じのカタルシス。しかも推理モノのように明確に答えがある問題ばかりではないのに、きちんと納得できるのが素晴らしい。

あと中学生達がみんな手ごわいのも良いです。

大人び過ぎ。

どうですかこの「世間のことはよく分かってないガキなんだけど、でも経験が足りないなりに悩んで思索してる」という感じ。生徒も先生も誠実。そりゃあ議論も白熱するってもんですよ。

「中学生がセックスしたらダメ!」とかで片付けず、「なぜダメなのか」を食い下がって質問をぶつけてくる生徒とそれに対して緻密かつ真摯に応える教師、そして上手い具合に「落としどころ」が見つかった時の快感。この議論だけでも十分おもしろいのに、加えて無駄にサスペンスフル。


鈴木先生』を知れただけでも『このマン』を買ってよかったなあと思いました。「おもしろい」だけじゃなくて「新しい」と感じられたのがとても嬉しいです。当たり前ですが、この世にはまだまだ知らない漫画あるなあ。興奮してきた。うおー。

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

実験からパロディまで、あらゆる漫画の手法がすでに出尽くしたと言われている現在。それが単なる思い過ごしに過ぎないことを実証しそうなこの傑作をライブで読めるのは、同時代の「漫画読み」としてまさに至福の体験です。ああ、早く続きが読みたい。(帯に載っている解説より)