さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

脳科学とエンターテイメント

僕は脳みそについての話が好きで、特に「脳の構造を考えると、生きるヒントが見えてくるよ」みたいな話がすごい好きなんですよ。精神論じゃなくて理屈で言われると納得してしまうというか。

過去には
http://d.hatena.ne.jp/hurricanemixer/20060213/1139813064
ここでも脳の話を書いてますね。

で、その時と同じ、TBSラジオ伊集院光・日曜日の秘密基地にですね、脳科学界のスター・茂木健一郎先生(クオリアとかアハ体験とかの人)がゲストで出てたので聞きました。放送は先月末の話だったんですがやっと聞けた。

そしたらそれが、生きるヒント的なものから、クリエイティブな人とは何か?みたいな話、あとお笑い・落語・エンターテイメント論にまでなっててめちゃくちゃ面白くて、これは皆さんに広めねば!と妙な使命感にかられたのでざっくり文字起こし。脳おもしろいよ脳。

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■オープニング・ゲスト登場前

伊集院「中学校の時に兄貴がエロ本を隠してたのが檜のタンスの中だった。檜のタンスを開けるとエロ本があったせいで、いまだに檜の匂いを嗅ぐとエッチな気持ちになる。これを直すにはどうすればいいんですかって聞きたいね。温泉レポートとか大変なんだから。茂木先生、これを治すにはどこを切り取ればいいんですか、メスで。っていう話を聞きたいね」


■茂木先生登場

伊集院「ギャグだと思われてるんですけど、本当に性の目覚めとともに檜のタンスがあるんですよ。そのせいでいまだに檜っていうか木材の独特の匂いを嗅ぐとエロい気持ちになるんですよ」
茂木「(脳内に)ルートができちゃうとそれは消せないんで、ルートAができちゃったらそれを消そうと思っても、もう消せないから。ルートBを作ってそっちを強くしないと」
伊集院「え、っていうことは、檜のタンスを買って、中に萎えるようなものを入れて・・・」
茂木「なんか別のもん入れとくといいんじゃないですか。回路っていうのは消そうとするとますます強まっちゃうから」
伊集院「俺ね、中3ぐらいのエッチな気持ちが強い時に、これ治さなきゃと思って、材木屋の前を行ったり来たりする練習をしてたんですけど・・・強くなりましたね」
茂木「実験しようっていうその気持ちはわかるけど、ちょっと無理があったかな」
伊集院「そうか、消そう消そうとするよりは・・・例えばいやな経験をしちゃっても、消そうとするよりは良い経験をするみたいな」
茂木「例えば憎たらしいやつってそいつのことばっかり考えちゃうから、ますます強くなっちゃうでしょ」
伊集院「より憎くなる」
茂木「だからやっぱり全然別のルートに行くほうが良いんですよ。自分の今までの人生と垂直に歩いていく。そうすると意外と良いとこ行けますよ。みんな同じとこばっかり歩くんで、それがダメなんだよね」
伊集院「今までの人生が決してうまくいってるとは自分で思っていないにも関わらず、おんなじとこをグルグル歩いて、強化しちゃう?」
茂木「ヤなことってまた経験したいって思っちゃうんだよね、脳の中で。確認したがるんだよ」
伊集院「それなんだろう、それは一般の家庭で言うと、『あ、シチュー腐ってる!』『ちょっと匂い嗅がして』みたいな。それで『うわー』ってなっちゃう」
茂木「人間の脳って、ヤなことが意外と好物なんですよ。っていうのはそれを補償するために脳内麻薬物質ってのが出るからね。だから例えばランナーズハイってそうでしょ。苦しいことと快楽ってのは強く結びついてるわけ」
伊集院「そうやって考えると、ちょっと国語的で申し訳ないですけど、嫌な事したら頭の中で良いものが出るなら、人間にとって嫌な事って・・・何?」
茂木「一番嫌っていうか悲しいのは無関心ってことかな。亀田兄弟だって悪い悪いって言いながらみんな関心もっちゃってるじゃん。あれは脳のメカニズムとしては愛に近いんですよね。見たくてしょうがないんだもん」
伊集院「テレビって、目を引くのって“快”だけじゃなくて、確かに“不快”も見ちゃいますよね」
茂木「「芸能人だって人気があるランキングと、人気がない、いやだって言うランキングの両方きてるやつが強いんですよ」
伊集院「亀田問題で思うのは・・・不快をつい見てしまうってことが始まると、不快を見る楽しさの最終的な終わりって、『亀田負けちまえ!』の『負けちまう』とか、亀田が『僕、今日まで間違ってました』みたいなこと言うとか、見るきっかけは『不快』なんだけど、それもエンターテイメントのひとつなんだけど、そのエンターテイメントの終わりっていうのは『不快の解消』しかないと思うんですよ」
茂木「深いね。悪者どうするかっていうのは物語作る時に難しいんだよね。悪が栄えるとかあんまりないけど、歌舞伎のストーリーテイリングにおいては結構それやってんだよね」
伊集院「でもそれは1ランク上のエンターテイメントじゃないですか、ワンパターンじゃない。でも一般の、視聴率30%ぐらい取るエンターテイメントだと、みんなが何にイラだってるのかっていうと、みんながアイツが負けるとこが見たいっていうところで、負けたにも関わらずグズグズだったりとか、負けそうで負けないっていう不快をドンドン足していって注目したいのに弱いとか、負けて改心してここから応援するっていう新たな楽しみが見たいのにグズグズでそうもならないとか、そこが本当に楽しくないんだと思う。そう考えると脳っておもしろいし、人間の見たいものっておもしろい」
茂木「でもそのフラストレーションがまた、楽しいんだな」
伊集院「本当に深い話ですねー…」
茂木「おもしろんですよ、脳って」
伊集院「その脳のあまりのおもしろさに興味を持つのは分かります。でも嫌になることってないですか?果てしなすぎるよ!とか」
茂木「でもその手に負えなさを楽しむのが人生なんじゃないかと俺は思うんだけど」
伊集院「いつも思うんですけど・・・脳科学者って、知るがゆえに、例えば自分の好きな子が自分に言ってくれることが、『脳科学的にはこういうこと』っていう現象としてしかとらえられないんじゃないですか?僕らは無知だから楽しくてしょうがないような、おれのこと好きなんだ!って思えるようなことでも」
茂木「それがそうでもないんですよ。1分かると10わかんなくなる。10分かると100わかんなくなる。枝分かれしてどんどん分からない部分が増えていっちゃうんですよ。恋愛なんてまさにそうでね。脳の勉強を始めたときよりいまのほうが分かんない。分かんないポイントがより明確になるっていうかね」
伊集院「高みにはいくんだけどその先の開け方が尋常じゃないから飽きることがない?」
茂木「研究者って言うのは分からなさを扱うプロ。どう分からないかっていう分からなさを表現するっていう」
伊集院「お笑いも、やればやるほどわけ分からなくなるんですよ」
茂木「僕もすごいお笑い好きなんですけど、単純なフレーズで笑わせる、例えば一発芸。ああいうのと、落語のようなすごい深い話芸。どっちもありじゃないですか。笑いとしては。どっちがいいとか悪いとか言えないじゃん?」
伊集院「そうなんですよ、一周して、瞬間の顔がおもしろいっていうことに敵わなかったりするじゃないですか。裏切りの裏切りみたいな伏線を張るみたいなことを考えるよりも、最終的には最初っから変な顔してたほうがみんな笑うぞみたいな、そこに来るじゃないですか。そうなるとお笑いなんていてもしょうがないみたいなことを思っちゃうんですけど、茂木先生と違ってたのは、少なくとも自分は、知ってる量は増えた、高さは高くなったけど広い問題が見えてきたっていうだけで、少なくとも自分は高いとこにはいるんだっていう自信は持たないと何にもやってないことと同じになっちゃうわけでしょう。そこ難しいんですよね。元の木阿弥みたいな気がしちゃう」
茂木「落語の名人が、前座がやるような小噺がおもしろかったりするじゃない。これがまた不思議だよね」
伊集院「変な話、お笑いだって脳の反応なんですよね」
茂木「笑いは深いですよ本当に」


■リスナーからの質問FAX。
FAX「ここ10年、『冷蔵庫』という言葉のみが出てこないことが多い。『あのー、洗濯機じゃなくて、白くて四角い・・・』としか言えない。冷蔵庫に限ってこうなのって何ですか?」

茂木「なんか冷蔵庫に対してトラウマがあるんじゃないですか。冷蔵庫そのものじゃないけどそれに関わる何かで抑制かかってんだね。冷蔵庫よりも人名にそういうケース多いですけどね。ある人に対して自分がなんかコンプレックスとかフラストレーションとかなんか持ってるとその人の名前が思い出せなくなるとか。これはよく見られるんだけど冷蔵庫って珍しいね」
伊集院「分かりやすく考えたら冷蔵庫の中に腐ってたとかになるんでしょうけど、もっともっと考えられる原因はあるわけでしょう」
茂木「冷蔵庫の横にあったものかもしれないし、冷蔵庫の横にいた人かもしれないし」
伊集院「冷蔵庫にいつもマグネットで学校からのPTAだよりが貼ってあって、それかもしれない」
茂木「そっちかもしれない。でもひとつ言えるのは、脳の中にある冷蔵庫の回路の近くにある何かであることは間違いない。でもその人の脳内地図で冷蔵庫の近くにあるものってそれはその人の個性だからね。その人の人生全部調べてみないとわかんないね」
伊集院「中途半端な知名度のタレントをやってると、すごく他人に間違えられることがあるんですよ。例えば僕が歩いてる時に、『石塚さん!』って言われることがあるんです。これは当然、距離が近いから間違えるのは分かるんですけど、意味が分からないところと間違えられることがある。こないだは『生島(ヒロシ)さん!』って言われたことがある。でも俺どうやっても生島さんじゃないんだけど、この人の脳内の整理の仕方はアイウエオ順なのかなとか、もしかしたらTBSラジオをすごく聞いてる人で、僕も生島さんもレギュラーがあることで近いのか分かんないですけど。でもなにかの分け方で近いところにいるんでしょうね」
茂木「でもそういう人って意外と天才だったりするから。天才っていうのは地図が他人と違う人だからね。まあたいていの人はただの困った人なんだけど」
伊集院「そうかそうか、違うけどみんなが納得するか、本当に違ってるかで、差は全然ありますね」


FAX「子育て中なんですが、子供の吸収力ってすごいと思うので、今のうちに英語を覚えさせようとしてるんですけど、日本語を教えた後に英語が良いのか、英語を教えた後に日本語で良いのか、それとも同時進行で良いとかあるんでしょうか?」
伊集院「俺たちは脳をバケツみたいなもんと単純に考えがちなので、英語いっぱい入れちゃうと日本語が入んないんじゃないかとか思ったりすんだけど」
茂木「J・S・ミルっていう天才経済学者でね、子供の頃から五カ国語教えられたってヤツいるし、それは平気だったっていうから、これはもう人生観だよね。チョイスっていうか、どっちでも大丈夫です。子供の脳って柔軟だから。母親がフランス人で父親が日本人だったりしたら両方聞いて育つだろうし。これは脳科学でこうじゃなきゃいけないっていうのは言えないんですよ。だからこれは人生観っていうか選択の問題だね。赤い服と青い服どっちがいいかって言われたら困るじゃないですか。それと同じです」
伊集院「脳科学の人が『こうしたほうがいい』って言うのをみんな待ってるんですけどね」
茂木「俺もそれ言ったほうが儲かるんだろうね。でも良心が許さないね」
伊集院「心理テストだって三択とかのほうが儲かりますからね。そんなのありえないんだけど」
茂木「お金って良心と引き換えに儲かるんだろうね。難しいね」


FAX「自分の描いてる字が怪しくなってくるんですが」
茂木「それはゲシュタルト崩壊ってやつだ。同じ文字をずっと書いてるとあやしくなってくるんですけど、脳の持ってる性質だからあんま悩まないほうが良いですよ」
伊集院「僕も与謝野晶子の晶っていう字とか、日が三つ、さらには四角がたくさんあるから、なんだこれってなってくるんですよ」
茂木「それも学校視点からすると困った人なんだけど、クリエイティブっていう視点から見るとそれがまさにクリエイティブなんですよ。クリエイティブって困った人と紙一重だからどっち転ぶかわかんないですよね」
伊集院「僕は39年間、困った人っていう扱いで来たけどもしかして・・・?」
茂木「それは本当に微妙な差だから、難しいんですよ」


■茂木さんが過去にいろんなメディアで受けたインタビューなどの記事を元にクイズを出題するコーナー。

Q「雑誌『考える人』2004年2月号からの問題です。茂木さんは『忘れたと思っても脳には痕跡が残っていて、その影響を受けていることに気づくからおもしろい』という理由で行っていることがあるといいます。その行為は何でしょう?」
伊集院「『忘れたと思っても、脳には痕跡が残っている』?」
茂木「例えば自分が子供の時に友達と遊んだこととかほとんど忘れてるじゃん?でもその痕跡は残ってて今の自分に影響は与えてるからね」
伊集院「自分はどんな遊びしてた?って聞かれても即答できないのに、例えば自分が作ったゲームとかCGは、言われてみればあいつとあんな遊びしてたことと関係してんじゃないかっていう、そういうことですよね」
茂木「そういうことです。えーでも難しいな。ヒントくださいよ」
伊集院「僕もそういう体験をしたいです。『あ、これって・・・』って。聞いてる人もそういう楽しみがしたければ、今日にでもお財布を持って買い物にいけばできることです」
茂木「(答えが出ずに)まいったなー、ド忘れが良いってのはいつも言ってるんですけどね。ド忘れごっことかじゃないですよね」
伊集院「何ですか、ド忘れごっこって」
茂木「ド忘れってチャンスなんですよ。知ってるって分かってるんだけど思い出せないわけでしょ。それを思い出すそのプロセスはクリエイティビティ・創造性と似ているってのが脳科学で分かってるんで。思い出すもどかしさが想像の、産みの苦しみと似てるんだよね。でもド忘れを買うってできないもんなあ、答えはなんですか?」
伊集院「正解は『古本屋さんで、これ昔読んだけど内容を覚えてないっていう本を探して買って読んでみること』。そうすると、『あーっ』って。ある意味ど忘れごっこですよねこれ」
茂木「そうかそうか。なるほどね。良いこと言うねこれ」
伊集院「ブックオフの売り上げ上がりますよね」
茂木「古い本の同じとこ読んで何回も感動してるとかよくあるもんね。人間もそうでしょう、こいつ前と全く同じ話してるけど、その事実に感動してるっていう」
伊集院「あります。太田光と話してて楽しいところは、あの人ね、ちょっとボケてるから同じ話するんですよ。だけど、そのおんなじ話のカメラアングルがちょっとズレてるんです。幼馴染の和菓子屋さんの話をする時に、ある時はそいつの顔にあるでかいホクロの話してるのに、次に聞いたときにはそこの金つばがどんだけ美味そうだったかっていう話をするっていう。それを俺は聞いてて楽しくてしょうがなくて。よく理路整然と寸分たがわずおんなじ話が出来る人もいるけど、それはすごいけどその人が楽しい話をできるかっていうとまた別で。太田さんの、記憶の中でタイムスリップしてカメラを回しながらもう一回紡ぐ力っていうのはすごい楽しくて。話に一貫性はあるけどアングルが違うんですよ」
茂木「分かる分かる。同じ話をしてもだいたい違っちゃう人っていうのは大体クリエイティブですね。ゲシュタルト崩壊の話と関係してて、おんなじルートばっかりたどってると、クリエイティブな人ってそこからどうしてもズレたくなる。通ってない道をいきたくなるんですよ。ゲシュタルト崩壊も、同じ回路ばっかり使ってるとそっから外れたくなる」
伊集院「脳を鍛えるゲームっていろいろ出てるけど、ああいうのって単純すぎて・・・」
茂木「クリエイティブな人には物足りないだろうね」
伊集院「でも古本を読むっていうのも、誰でもできるけどやってないじゃないですか。でもめちゃくちゃ楽しいじゃないですか。茂木先生に教えて欲しいのはこういうのなんだよなあ・・・」


Q:「サンデー毎日・2005年11月20日号からの問題。記事の中で茂木さんは、人生で行き詰った時の解決法について語っています。その解決法とはなんでしょう?」

茂木「易しい方と難しい方があったら難しい方を選べとかそういうんではないんだよね?」
伊集院「むしろ逆方向ですね。ヒントは『これをした時に脳は初めて変わる事が出来る』」
茂木「お風呂に入るとかそういうのじゃないよね」
伊集院「答えは、要は『小さいことで良いから成功体験をしろ』と」
茂木「ああ、いつも俺それ言ってんだけどね・・・」
伊集院「クイズにすると難しく考えてしまう。あのね、脳ってそういうもんなんですよ(笑)」
茂木「成功体験するとドーパミンってのが出て、ドーパミンが出るとそのときにやっていた回路が強化される強化学習ってのがあるんですけど。これが軌跡をもたらすわけですよ。ドーパミンが出て、最初の一回転が回ると、後は人生、楽なんだけど。最初のひと漕ぎ目が難しいんだよな」
伊集院「自転車乗ってると、マックススピード乗ってるとそんな難しいこととは思わないんですけど、信号変わって止まって、漕ぎ出すときっていうのが一番重い」
茂木「重いし、もう俺には漕げないんじゃないかって思っちゃうでしょ。おそらくね、人生うまくいかないんじゃないかって思ってるやつのほうが多いんだよね、この世の中には。そういうやつってさ、閉じこもったりするじゃん。そういうやつって最初の一回転ができないだろうって思ってるんだ。でも考えてみれば子供の時だって、最初はハイハイしてたのが立ち上がって。人生初ですよ、立ち上がるって。でもやっちゃうじゃない?あの子供の時の気持ちを思い出して欲しいなあって」
伊集院「このインタビューでは、人生に行き詰ったらボランティアでもいい、なんか集めるのでもいいから小さいことからやれってかいてあるんですけど。僕は学校に行かなくなった、引きこもった経験もあるんですけど、引きこもって大きい問題かかえたら一歩も動けないじゃないですか」
茂木「それなんだよ、一発逆転ねらっちゃうんだよね。逆に」
伊集院「周りの人間が学校に行けてるのに俺行けてねえっていう負債がでかすぎるから何倍もすごいことやんなきゃいけねえっていう。でも意外とバッタつかまえてみよう、バッタつかまえたっていうことで家出れるのに・・・」
茂木「ほんとそう」
伊集院「そんなことがわかんなくなっちゃいますからね」
茂木「脳の中では小さい喜びも大きい喜びにできるんだよね」
伊集院「動いてる額とか社会的な評判とかで俺たちは考えるけど実は脳の中ではそんなに別のことじゃないっていうか」
茂木「だって思いっきり遊んで腹ペコになったらカップ麺一杯がうまいよ?そんな高級レストランなんか行かなくたって」
伊集院「数字で考えちゃうと、カップめんより北京ダックのほうが美味くなきゃいけないって考えちゃうんだけど、それは全然ちがうことで」
茂木「だって好きな子から貰った手紙ならたった一行でもうれしいでしょ。脳にとっては価値ってのは相対的なもんだから。そこでどう自分の中で作り変えていくかっていう。そこがおもしろいんですよ。落語ってそうじゃないですか。貧乏でも楽しめるって」
伊集院「みんなこう思ってるかもしんないけどこっちのほうがこうだ、と思わせといてこっちも、みたいなことずっと行ったり来たりしてるのが落語だから、それすごい分かりますね」


Q:「茂木さんは東京大学理学ぶに在籍していた頃、当時お付き合いしてた女性からの一言に傷ついたことがあるそうです。その一言とはなんでしょう?」

伊集院「ヒント・『あなたの研究はホニャララなの?』」
茂木「『お金が儲かるの?』」
伊集院「正解!トラウマを思い出して喜ぶって変な話ですけど。僕らも先生の話を聞いておもしろいから聞くんですけど・・・ソニーでお仕事してるんですよね?簡単に言うとどういうことやってるんですか?」
茂木「簡単に言えばロボットが人間のように考えるとか、そういうの目指してるわけですよ。あと画期的なユーザーインターフェイスとかね」
伊集院「前にソニーの、一番最初のほうに出たハードディスクレコーダーには、僕が予約して撮ったやつ以外に『伊集院さんこんなの好きでしたよね』って勝手に録画する機能が付いてたの。それに僕はすごい期待してて、僕が自分の意思で撮ろうとしてる番組以外に、『伊集院さんが録画してる番組に共通して出てる女優さんはこういう人ですよね』『ジャンルはこういうのですよね』っていうのを勝手にコンピューターが集計してくれるっていう。で、ある日突然、俺も気づかなかった俺の好きな番組をコイツが持ってくんじゃねえかと」
茂木「そのね、レコメンデーションっていうのは難しいんですよ。なぜかっていうと人間の欲望っていうのは非常に深いから。自分の今までの線上にあるものも欲しいけど、サプライズも欲しいわけじゃん。定番性とサプライズをうまく組み合わせないと、ドーパミンっていう脳の中で喜びを感じる物質は出ないんですよ」
伊集院「さっき言った話と合わせて考えると、不快ばっかり撮ってくることもありえるわけですもんね」
茂木「そこを我々は神経経済学っていう学問でやってるわけです。ニューロエコノミクスっていうんですけど。人間の欲望はどういうものかっていうのをモデルとか作ってね、計算してるんですよ。それでお役に立てるものができるかもしれない」
伊集院「難しいですよね、機械は融通きかないし、人間は『思い出せない思い出せない、あーそうだ』が楽しかったりするのって数式にはしづらいですよね」
茂木「これね、エンターテイメントと同じなんですよ。エンターテイメントも人を喜ばせるのって難しいでしょ。定番の笑いもあるけどサプライズもなくちゃいけなくて。この微妙な配合をしないとエンターテイメントって成立しないけど、これをやろうとすると難しい。これはそのうち成果をお見せできると思います。まあちょっとはお金儲かるかな、わかんないな」
伊集院「でも聞いてるとすごくワクワクする。それが出てきた時に、難しいことをわかんないでいじってる家電の中に、そういうことが含まれてたらどんだけ楽しいだろう。ただ問題はそれを意識しなくなった時に、茂木さんの手柄を誰も誉めてくれないんですよ、すごいことであっても。意識しないことがすごいことだったりするから」
茂木「でも本当にすごいことっていうのはさ、酸素だって誰も誉めてくれないし、水だって誉めてくれない。誰も誉めてくれないやつらがいかに偉いかって分かってきたわけじゃん。ま、研究もそんなもんだね」



■茂木さんと10人のクリエイターによる、『芸術脳』という本が発売中という話。

芸術脳

芸術脳

http://www.shinchosha.co.jp/book/470202/

伊集院「すごいメンツですね。いとうせいこうさんでしょ、ユーミン佐藤雅彦さん、リリー・フランキーさん・・・ジャンルが全員バラバラ。やっぱ刺激になります?」
茂木「このトークはすごいよ。俺、クリエイターの脳の中を覗き込んで引きずり出すの得意だから」
伊集院「これすごいのは、いとうせいこうさん、ユーミン佐藤雅彦さんの間にいる知らない人にも興味出てくるもん。知らないジャンルの」
茂木「例えば内藤礼ってのは現代アートの人だしさ。あとね、リトル・ブリテンって知ってます?これはレアもの。イギリスの超人気コメディの2人なんだけど。この2人からはイギリスのコメディのディープな秘密をちょっと聞き出してます」
伊集院「『笑い物こそが「笑い」を創造する』っていうテーマでそのリトル・ブリテンっていう人達と・・・」
茂木「伊集院さんもそうじゃなかった?子供の頃さ、笑われてすごい苦しいっていうそういう人がこうやって逆襲してさ」
伊集院「分かる、笑われるっていうことを快感に変えるには、俺がお前をあやつって笑わせてるんだよっていう風に変わりたいんだ」
茂木「そのねー、リトル・ブリテンの2人もそうだったんだよ」
伊集院「お笑いってね、全員ではないけど、笑われるのは嫌いっていう人多いんですよ。トラウマになってて。そのスタートが笑われたことで、笑われたことによる支配関係を変えたいから計算で笑わせるほうにいったもんだから・・・これも突き抜けるとどっちでもいいじゃんってなるんですけど。突き抜けない段階のお笑いは、笑われることを恐怖したりしますね」
茂木「おもしろいね、いつか伊集院さんも対談しましょう」
伊集院「また脳の特番とかで付き合ってください」