さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

マッスルハウス5(後楽園ホール)

さて新年1発目のマッスル。
詳細はこちら。
http://www.miyatasan.com/~yagifau/2008/musclehouse5.htm

まあいろいろあった興行ですが、Perfumeを世に出した功労者のひとりでもある、ライムスター宇多丸さんが大絶賛してくれたのが嬉しいです。
http://playlog.jp/rhymester/blog/2008-01-05

遅まきながら、本当に遅まきながら、
初めて『マッスル』の興行を観に行ってきました。
これが予想していた以上に……凄かった!
前半の、言わばメタ・プロレス的な「構造」だけでも、
すでに十分過ぎるほどレベルの高い
(そしてモロに私好みの)面白さを達成しているのに、
最終的には意外や意外、
文字通り「リアルに」体を張ってみせることで、
ジャンル本来の根源的な感動を、
ストレートに体現するところまで突き抜けてしまうという……
ちょうど『デス・プルーフ』にも通じる偉さというか。
とにかく、
虚実皮膜の間でひたすらクラクラさせられたあげく、
最後は腹にドスンと来る、
極上のプロレス体験、させていただきました!

自身のラジオでも冒頭から30分ほどかけて絶賛。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1963614
宇多丸さん自身があまりプロレスに明るくないこともあるのか、プロレス及びマッスルを知らない人に向けてこと細かく説明してくれたうえで「日本で見れるエンターテイメントの中でも最高クラスのもの」とまで絶賛してくれてるのが驚き。「マッスルってなんだ?」っていう人はwikipediaを見るよりもこの放送を聴いたほうがいいかもしれないです。
というか僕は今まで何度も周りの人間(主にプロレス好きじゃない人)にマッスルを勧めてきたんだけど、「試合がスローモーションになったり、リングの上でドッキリをやったりしゃべり場をやったりするんだよ」とか表面部分だけを説明してみても、「お前の話を聞く限り全然おもしろそうじゃない」と一蹴されてきたんですよ。それでも無理やりDVDを貸したりしたあとには「見てみたらめちゃくちゃおもしろかった」とは言われるのだけど、言葉で魅力を説明するのは不可能なのか?と悩んでいたところなので、言語化してくれたのはありがたい。このラジオ聴いたら「マッスルおもしろそう」って思っちゃうもの。

ものすごくざっくりとまとめると、話してた内容はこんな感じ。

前半はプロレスをメタ化して、プロレスの虚実の「虚」の部分をこれでもかとばかりに強調して見せている。
プロレスとアイドルの成り立ちづらくなった歴史は似ていて、虚実皮膜を楽しむエンターテイメントの「虚」の部分っていうのは、80年代以降、時代の空気やインターネットの発達で「見えやすく」なりすぎた。そこで「実」であるPRIDEなどの格闘技が流行り、プロレスは「虚」なんでしょ、作り物なんでしょ、ということで成立しづらくなっている。本当は虚実の合間、本当かな?嘘かな?っていうどっちだけでもない部分を楽しむものなのに。
アイドルだって本当は処女じゃないのに「本当は恋愛禁止なの」というフリをしているものだった。でも暴露されちゃったり、アイドル本人が「やってられっか」ってなったりするし、音楽的にも「アイドルじゃなくてアーティストよ」という「実」の部分を拡大している。そうやってアイドルとプロレスはマニア限定のものになっていった。

マッスルが頭いいと思うのは、そこを逆手に取って、プロレスの虚の部分を強調して「プロレスとはこういうものですよ」という種明かしに近い反則技をやっている。これは脱構築的、ポストモダン的で現代的な見せ方で、「世間の人はプロレスのこういうとこをこう見てる」っていうのを分かってるな、と。

ところが、マッスルというものに感動させられたのはここから先。言ってみればサンプリング世代的な、ポストモダン的なのはマッスルでいえば前半だし、ヒップホップっていうのはそういうものなのかもしれないし。映画でもタランティーノ以降サンプリング的なものは多い。そういう表現は時代にフィットしてるんだけど、後半は様相を変えてきた。

メタプロレスという感じでお遊び的に見ていたんだけど、プロレスはいくらお約束とはいえ、体を張っていて、殴られたり投げられたりすれば痛いし、本当に強いプロレスラーがやれば死の危険性すらあるものである、という「実」の部分を後半になって見せ付けてくる。「本物の」プロレスラーの鈴木みのるさん達が登場してきて、さっきまでメタプロレスを演じていたマッスルの選手達を完膚なきまでに叩き潰し、マッスルの選手達もそれに食らいついていく。前半の「ゲラゲラゲラ」っていう空気が嘘のように、リアルな何かがそこで展開され始めるわけです。そこで「さっきまで笑って見てたけど、大丈夫なの?死んじゃうよ?どうやって終わらせるの?」と、プロレスというものの虚実皮膜の快楽に完全にハメられてしまったわけですよ。本当にハラハラしてたから。

プロレスって世間の人にはこういうところが嘘っぽく思われてんだよね、ってわざとやってみせる前半に対して後半は文字通り体を張って、体現するんだっていう覚悟、志に本当に感動した。

これを見て連想したのはグラインド・ハウスっていう映画で、前半がロバート・ロドリゲスのプラネットテラー、後半はタランティーノデス・プルーフ。まさにプラネットテラーはメタB級映画で「B級映画ってこんなもんでしょ」っていう表現。タランティーノが他のサンプリング映画と違うのは、本当の映画の魂を掴もうっていう意思が、志がある。原始的な、文字通り体を張ったアクションを見せることでサンプリング世代の表現という小ざかしさを突き抜けている。これはまさにマッスルハウス5の流れで、さっきまでが感心だとしたら、後半は感動してしまった。

マッスルハウスに関してはさらに重たすぎるもうひとネタがあるんだけど、皆さんが何かで見る機会があるかもしれないんで言わない。これはマッスルファンですら賛否両論あったみたいで、僕らはプロレス慣れしてないんで、え、これは本当?これはネタ?という感じで虚実の間を行ったり来たりさせられ、おなかいっぱいになり、興奮してしまい、本来はラジオの打ち合わせで集まったはずなのに打ち合わせが全然できなかった。

と、ここまで。これだけ読んでも分かりづらいと思うので、上に貼ったニコニコ動画のリンクから聴いてみてください。

そしてマッスルが気になった人は、マッスルの公式サイトからオンラインショップに行き、マッスルヒストリーというDVDを買ってください。今のとこ、残念ながら会場に行くかサムライTVで見るかDVDを買うかしか見る手段がないので。

入門にはマッスル最高傑作といわれるvol.7がお勧めです。これはもう、上でも書いてますが今までに見た全エンターテイメントの中で一番感情を揺り動かされましたし、プロレスを知ってる人知らない人、男女問わず色んな人にむりやり貸して見せたんですが、まあ5人ぐらいですけど、全員が「おもしろかった」と言ってくれました。上にレポ貼っておいてアレですが、なるべくネタバレなしで見て欲しい。

あとはまあ、背表紙がコレクター欲を微妙にそそるので、気になったらどんどん過去を掘り下げる感じでいいと思います。
参考→http://d.hatena.ne.jp/Nakamyura/20080114#p2

以上、宣伝でした。