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生き様なんて5番目だ! 卯月妙子『人間仮免中』

卯月妙子さんの『人間仮免中』を読みました。

人間仮免中」では、波乱に満ちた人生を送る卯月の近況が見られる。統合失調症の悪化など、複雑な事情を抱え長らく筆を置いていた卯月。物語は25歳年上の男性と恋に落ちたことから始まり、様々な苦難を乗り越えながら2人が愛を育んでいく様子を描いている。

卯月妙子さんのことは「AVでうんこ食ったりしてた人」程度の認識でよく知らなかったんですが、

このあたり読んで皆さんの熱量が異常なのが気になって読んでみたんですけど、とにかく疲れました。「こういう人生もあるのか」系のコミックエッセイだと吾妻ひでお先生の「失踪日記」とかあると思うんですけど、あれ読んだ時の何十倍もぐったり。

旦那の借金が原因でAVに出たり、その後旦那が投身自殺を図って1年半植物人間になったあと亡くなったりっていう壮絶な過去を持ってる作者と、それでも好きになってくれた25歳年上の恋人・ボビー。統合失調症の卯月さんと癇癪持ちだけどいい男ボビーの、「見ててハラハラさせるけどなんだかんだ言ってラブラブな2人の日常」が描かれてて、「いろいろあったけど生きてて良かったね」と思って読んでたら、ボビーが保証人になってた会社が潰れて6000万円失うことに。

そこで「これからはいかに安く旨く飲むか考えようぜ!」「デートは公園で健康的に!」みたいな話をし始めたので、「金はないけど逆にこっちのほうが幸せな日常」みたいな話になるのかと思ったら、ヨガと占いにハマって根拠のない万能感を得だした卯月さんが自分で勝手に薬を減らして、いきなり「これからおいらはミラクルを起こすんだ!」「バンジーで運試しだ!」って感じで歩道橋からダイブ。奇跡的に身体は無傷だったけど、顔面から着地したので頭蓋骨ごとズレて片目が片目は失明したうえに変な位置にズレる大怪我。

このあたりまではまだ(内容は重いけど)テンポ良く読めたんですが、そのケガでの入院生活のあたりはきつかったです。統合失調症の幻聴とか幻覚を、よくこんな覚えてるなっていうぐらい書いてるくだりがしばらく続くのがとにかくいろんな意味で辛くて……。
具体的に言うと、「笑われてる幻聴」とかはまだ軽いほうで、看護婦さんたちが「顔面投的」(身体をベッドに拘束して顔面に鉄球をぶつけて頭蓋骨を砕く安楽死のやり方)の話をしてて(もちろん幻覚)、それに卯月さんは怯えてるんだけど、コマの外に「注・顔面投的なんてものはこの世に存在しません」とか書いてたりするんですよ。あと自分の遺体をスカトロマニアのおじいさんの遺体と一緒にすり潰されて、それをボビーが食べる幻覚とか。こんなもん、ちょっとずつ休憩入れないとしか読めない!

それでも最終的には「親・息子・恋人・友人・病院の人たち、周りの人に支えられて生きてる!」っていう結論になって、ベタといえばこれ以上ベタな話はないんですけど、それまでの過程が壮絶な分、本の帯にもある「生きてるだけで最高だ!」の説得力がとんでもないなと思いました。

個人的には、卯月さんが薬の副作用でうんこ漏らしたとこでボビーが言った

お漏らしなんて気にすんな!
いいか?
1に、この世にあること!
2に、この世に快くあること!
生き様なんて5番目だ!!

というセリフがとても印象的でした。
自分の周囲にいる能力の高い人に嫉妬したり、ネットとかでよく見る意識の高い人達を見て「おれ才能もないし、別に出世欲とかねえなあ……」ってヘコんだりすることも多かったんですけど、とりあえず生きるぞー!