さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

「動物戦隊ジュウオウジャー」45話〜46話を見て「おれはこれが見たくて特撮を見てんだよ!」って感動したのでどこらへんが良かったのか全部説明させてください

動物戦隊ジュウオウジャー」の45話〜46話が良すぎました。ニチアサで初めてガチで泣いたので、その話をします。

知らない人に説明しますと、ジュウオウジャーという戦隊は、初期メンバーは人間1人、ジューランドという異世界から来たジューマンという獣人みたいな種族(ただし人間の姿にもなれる)が4人というチーム編成なんですね。

だからレッドのジュウオウイーグルこと風切大和は、人間界のルールがわかってないジューマン4人に対して唯一、常識人としてツッコむポジションで、序盤ではこのあたりがコミカルに描かれる場面も多かった。イーグルは武器もムチっぽい剣なので、それも相まってジュウオウジャー初期メン5人は「動物使いと動物4匹」みたいなイメージがあります。

レッドがツッコミ役って実はけっこう珍しいんではないでしょうか。ここ10年ぐらいのレッドは、「戦闘力は一番高いけど最年少だったり天然だったり俺様キャラだったりで精神的には未熟な面もある」というキャラが多く、しっかり者のツッコミ役は別にいるイメージ。でも大和は、レッドという本来ならリーダー的ポジションなのに、ジューマンたちに振り回されて気苦労が絶えないんです。とはいえ「まあいっか」って感じで明るくみんなと仲良くしてるし「振り回されて情けないヤツ」的な印象もない、超優等生キャラ。途中から加わる6人目、ジュウオウザワールドこと門藤操が度を越した卑屈でコミュ障でめんどくさいキャラなんですが、その操とも普通に仲良くなれるのが大和です。


あと、いま上映中の「ジュウオウジャーVSニンニンジャー」っていう映画があるんですけど、この「VS」というシリーズはその名の通り現役戦隊と前年の戦隊が戦うシーンがお約束なんですよ。お互いの誤解だったり、敵の策略にハメられたりが原因で。そのときに「え、こんな理由で戦っちゃうの?」っていう感じで争い始めるので、戦隊メンバーはそれまでのキャラが崩壊してギャグっぽくなることも珍しくないんですが、「ジュウオウVSニンニン」では、ほかのメンバーが争ってる中で、大和だけはちゃんと「俺だけはしっかりしないと」って言ってたので、やっぱり歴代屈指の優等生レッドではないかと思います。

そんなふうに基本的に常識人で優等生でおまけに戦闘でも強い、完璧に見える大和だけど、唯一のウィークポイントが家族の話でした。大和は叔父さんの家に居候してて、そこにジューマン4人も住んでるんですけど、なんで大和が叔父さんと住んでるのか、両親はいないのか、などの話は中盤まで語られませんでした。っていうか、家族の話になると大和がはぐらかしたり、叔父さんが無理やり話題を変えて、視聴者に謎を残してたんですよね。家族の話をされたときの大和が「その話題に触れるな」的な怒り方をするならともかく、避けることに慣れてるというか、笑顔でさらっとごまかすっていうコミュニケーション能力の高さもまた、逆に闇が深い感じがあったりして。

大和と父の関係について、中盤で「母親は死んでて、父親は生きてるけどどうやら大和と仲が悪い」ということが発覚したり、操が入院した病院の医者が大和のお父さんだったことで偶然にして唐突な親子の再会が実現したりはしてたんですが、なかなか親子関係の詳細は語られず、いよいよ本題となる45話です。

ふとした瞬間に、ジュウオウタイガーことアムちゃん(ホワイトタイガーのジューマン)と大和が2人きりになったんですが、そこでアムちゃんが「大和くんは自分のお家に帰らないの?」と問いかけます。病院での大和とお医者さんのやり取りを見て、「あの人がお父さんでしょ?」と1人だけ気づいていた彼女。ここで大和から父との軋轢について語られ、「大和の幼少期、母が死んだ時に父親は急患が入ったことで、母の死に目に間に合わなかった」ということが原因であることが発覚しました。

そこから大和は「お前なんか父さんじゃない」という「美味しんぼ」の山岡士郎みたいな状態に突入したと。まあお父さんにだって事情があったのは理解できるけど、子供はそれを理解できずにトラウマになることもわかりますよね。

この告白を聞いたアムちゃんと大和のやり取りが超良かったんですよ。

アム「そっくりなんじゃない? 大和くんとお父さん」

大和「……どこが」
アム「大事なことを全然話さない。まわりがどう思ってるかわかってない」
大和「………………!」
アム「一度、ちゃんと話してみたら?」
大和「無理だよ今さら……」


アム「なんで? 同じ世界にいるのに? いつでも会いに行けるのに? たった2人の親子でしょ

アムというキャラはですね、序盤は単に「計算高いメス」っていう印象が強かったんです。


だけど話が進むにつれ、実はメンバーのことを一番見ていて、メンバー同士の確執を中和する、バランスを取るという一面も出してきてたんですね。彼女の象徴的なシーンとしては、最初のほうで書いたコミュ障の操くんに対して、「普段は卑屈だけど誉められると超がんばるし超強い」という彼のめんどくさい性格を知ったうえで、ちゃんとおだてて調子に乗らせることができるんですよ。


相手を観察したうえで、必要とあらばボディタッチも辞さない。恐ろしい女ですよ。その洞察力をもって、大和に対しても「(憎んでいる)お父さんとそっくり」って、めちゃめちゃ痛いところをついてくる。

大和に父親の話を聞き出すときもですね、2人きりになった瞬間に「今しかない」って感じで一度ハッと気づいた深刻な表情をしたのち、がんばって笑顔を作ってから話しかけてるんです。「まわりがどう思ってるかわかってない」のセリフも、(もー、しょうがないな)と諌めるような「わかってないっ」っていう感じで絶妙な可愛らしい、かつ優しい言い方でした。

「同じ世界にいるのに? いつでも会いに行けるのに? たった2人の親子でしょ」っていう部分に関しては、アムは「帰りたくても元の世界(ジューランド)に帰れない」「ジューランドではお母さんと2人暮らし」っていう背景があるんです。それを踏まえて、自分とお母さんのことを思い出したら辛いだろうに、明るく振舞いながらの(でも目は笑ってない感じで)「なんで?」とグイグイ迫りながらの「たった2人の親子でしょ」ですよ。アムの小悪魔というか、ぶりっこな面って、言い換えれば自分の感情を押し殺して、計算で笑顔が作れる女なわけですよ。それがここで活きたわけですね。演じる立石晴香さんもこのキャラに合っててかわいいし、芸達者でした。

とはいえ、戦闘が始まってしまってこの会話は一旦終了。アムちゃんがせっかく追い詰めたのに! その後なんだかんだあって46話です。


ジュウオウジャー6人で強敵・アザルドの元へ向かっている時に街から火の手が上がるんですが、どうやら大和の父が働く病院も被害にあっている。ここでの大和とアムのやり取りもすごいんです。

アム「大和くん、こっちは任せてお父さんのとこに行きなよ」
大和「いや、今はアザルドを……」
アム「それを言い訳にしないで!2度と会えなくなってもいいの? 私達の前でそれを選ぶの!?


大和「……分かった」

前回は優しい言い方だったアムちゃんが、ここでは泣きそうな声で絶叫。あーあ、優しいアムちゃんを怒らせちゃった。「私達の前でそれを選ぶの!?」は、「もう両親と会えないであろう私達の前で、死にそうな父親を助けられるチャンスがあるのに助けないの?」ってことですからね……。アムにここまで言われたら大和も動かざるを得ません。冒頭に書いた、ニチアサで初めて泣いたシーンはここです(※追記:ここのアムちゃんは「いつまでもうじうじしてる大和に怒った」というより「大和をけしかけるためにこういうキツい言い方を選んだ」みたいなほうが近いのかも。優しさが見える叱り方だった)。公式サイト見ると、やはり何度も撮り直すほどに力が入ってたみたいですね。

そして大和が病院にたどり着くと、ちょうど父の上に瓦礫が落ちてきたところでした。なんてタイミングだ。そして大和が「父さん!」と父に覆いかぶさったところで、7人目のジュウオウジャー、ジュウオウバードこと鳥人間のバドさんが飛んできて瓦礫を破壊。父は助かります。

大和とバドの関係を振り返ると、大和は幼いころ、山でケガして倒れているところをバドに助けてもらったことがあるんです。ジューマンじゃない大和がジュウオウイーグルに変身できるのは、ジューマンのバドから寿命と力をわけてもらったから。その後もバドはなぜか大和のピンチを何度か救ってます。

バドが大和と父を助けたあとには、父とバドの間で「バド……!」「お久しぶりです」という会話が。父さんがバドと知り合いだったことがわかり、大和は困惑しますが、バドが「俺の命の恩人だ」と告白。


ここで色々と話が繋がってきました。バドが人間に襲われて(人間から見たら化物ですからね)重症を負ったのを、大和の父が助けたことがある。しかもそれが大和の母親が死んだ日だった。つまり父が妻=大和の母の死に目に会えなかったのはバドの治療をしてたから。さらに、バドが大和をこれまで何度も助けたのは、恩人の息子だから。

バドが大和の父に助けられたシーンの回想で、

バド「なぜ(人間じゃない)俺を助ける」
大和の父「生き物は皆、どこかで誰かと繋がっているものだ」

というやり取りがあったんですが、大和の母も、死ぬ間際に大和に対して「この星の生き物は、みんなどこかで繋がっている。だから大和は1人じゃない」って伝えてるんですよ。

その言葉を大切にしてるであろう大和は、劇中の要所要所で「この星の生き物は、みんなどこかで繋がっている」って繰り返し言ってきたし、その「繋がり」を絶とうとするヤツは許さないという姿勢を見せてきた。だけどそれは母だけじゃなく、憎んでたはずの父の信念でもあったわけです。この信念は、もしかしたら父が母に教えたことなのかもしれない。父親はこの過去が描かれるまで、「あの大和がここまで嫌うからにはどんだけ人でなしなのか」と思ってたけど、実はちゃんとしたお医者さんだったこともわかりました。バドとの再会のあとでも、被害にあった患者さんたちを励ましたりしてますからね。やはり大和と似てて、不器用なだけなんでしょう。海原雄山かよ。

正直、これまで「生き物はみんな繋がってる」っていう壮大なテーマでずっとやってきたのに、なんで急に大和と父親の個人的なケンカを掘り下げるんだろう? って思ってた部分もあるんですけど「こう繋げてくるか!」と唸りましたね。

そして「俺がいま生きているのは、父さんがバドさんを助けたから」と気づいた大和は、感情を持て余して混乱し、「うわあーーー!」と叫びながら走り出します。

そのままほかのメンバーが戦ってる場所へ向かうために変身するんですが、「俺は……俺はァァァァーーー!」と叫びながらイーグルになって飛んでいくシーンはたまらないものがありました。あの優等生の大和が……。変身用のキーワードである「本能覚醒!」もここではちょっと違う意味に思える感じでした。

大和はメンバーと合流し、敵のナンバー2ぐらいである強敵・アザルドに立ち向かうんですが、ジュウオウイーグルが剣でラッシュするシーンの合間合間に、人間の姿の大和が「俺は……俺は……!」と感情を剣にぶつけるシーンが挿入される演出も新鮮でした。


ラストに近い強敵との対決、かつ大和の諸々が明らかになった超重要な戦闘シーンで、特撮的に目新しい絵を入れてくれるのはうれしい。そもそも人間態の大和が剣を操る場面ってこれまで基本的になかったはずなので、このためにわざわざ剣さばきを練習したのかも、っていう点も含めた感動がありました。


そのあと戦闘があり、さしあたって大和と父親の話は来週に持ち越しみたいですが、とにかくジュウオウジャーは最高です。子供向けのニチアサなのに、なんでこんな重いテーマやってんだ?と思う人もいるかもしれませんが、これってニチアサじゃないとできない話なんですよ。人間と異種族の間のファンタジーっていう面でもそうだし、そもそも50話近くかけてドラマを紡いでいくっていうのがほかの枠ではなかなかできないですから。こういうのを見たいから、大人になっても特撮見てるんですよ!というお話でした。ジュウオウジャーはあと2話、次回作の宇宙戦隊キュウレンジャーからでもいいので戦隊やライダーを、大人の皆さんにも見てほしいです。