さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

5/4 マッスルハウス4(後楽園ホール)

ここ半年ぐらいでSPA!の「エッジな人々」に登場し、古田新太に「『マッスル』は大人計画劇団☆新感線になれる」と言われ、クイックジャパンで12ページに渡って特集され、デトロイト・メタル・シティとコラボTシャツを作り、主催のマッスル坂井は『hon-nin』にコラムを書くという、サブカル方面のブレイクが異常すぎる文化系プロレス『マッスル』を見てきました。

前回がめちゃめちゃおもしろかったので期待値も上がってるし、上記のように追い風が吹きまくってるのでやる側はプレッシャーも感じてるだろうから、今回は大丈夫かなあって思ってたんですけど、そんな心配を吹き飛ばすほどの完成度でございました。今までに見たプロレス興行の中でも1位かも知れません。
一緒に行った田中さん(id:foreplay)は、プロレスは知ってるけどマッスルに関する予備知識なしっていう人だったんですけど、帰り道には2人でずっと「いいもん見たね、いいもん見たね」しか言ってませんでしたよ。いま思い出しても鳥肌立つ感じ。
翌日のイベント(ラブサミのオフ喜利)の準備が終わってなかったんだけど、無理してでも行ってよかった。これがプロジェクトXとかなら、僕は「マッスル」に衝撃を受けすぎて「オフ喜利の構成、最初から練り直しじゃーい!」ってなってるとこですが、僕は凡人なのでそうはいかなかったのが悔しいです。


サムライで12日に放送だそうなので、一応ここから先はネタバレです、と注意しておきます。


前半戦は、いつものようにマッスル総合演出家・鶴見亜門が因縁つけてきて、
「今は捏造・やらせが流行ってるからプロレスなんてうさんくさいものはやめよう」
「3カウントだってちゃんと計って見たら2.25秒ぐらいしかないし、国籍を偽ってるヤツ(アントン・趙雲)だってヤバい」
「5カウントまで反則OKってのがおかしいし、どうせ先輩が勝つんだろ」
ってことで、
「ちゃんとしたスポーツをやろう、いま視聴率が取れるのはフィギュアスケートだ!」
という流れに。
ここで前回は大喜利セットを組み立てたツムラ工芸さんが登場、ホールの北側席にはみるみるうちに立派なセットが。僕はフィギュアスケートを見ないんでピンとこなかったんですが、このセットは「キスアンドクライ」といって、演技を終えた選手がここで結果を待ち、モニターで得点を見て、泣いたり笑ったり外国人コーチとハグしたりキスしたりする場所なんだそうな。
で、これを使って「フィギュアプロレス」をやろうと。音楽に合わせて試合して、レスリング技術、要素のつなぎ、演技力、振り付け、曲の解釈の合計点で競うっていう。
そこで飯伏幸太VS男色ディーノがフィギュアの要素を取り入れたプロレスやって、試合後はキスアンドクライで得点を見て泣いたり喜んだりして、3試合目でいつものようにゴージャス松野が死亡したところで前半戦終了、休憩。


後半は今までのフィギュアの話は全くなかったことになり、マッスルの本体(というか親会社というか)であるDDTの社長・高木三四郎が登場。たぶんマッスルに出たのは初?
DDTの経営状態が悪いのでマッスルは海外の(UFCならぬ)『UCC』という団体に買収されることになった。今回のマッスルがDDT傘下のラスト興行だ」
と、どっかで聞いたことのある話。「嫁に出す気持ち」とか「オーナーが2つチームを持つようなもの」という例えまで同じ。そしてこれまでのマッスルの歴史がPRIDEのこの映像によく似てる感じでまとめられて流された。

で、まあ説明めんどくさくなるほど色々なんだかんだあって、高木三四郎マッスル坂井シングルマッチをやることに。

お互いがピンチの時はもちろん「マッスル」名物スローモーションに突入。試合途中で「エトピリカ」(情熱大陸のテーマ)に合わせ、モニターに回想シーンが流れ、本人のモノローグが加わって試合にドラマチックさが加わるのをリアルタイムでやるという発明です。

坂井のピンチの時の映像では、ナレーションで
「マッスルを始めて2年半、プロレス界に新しい表現手法を取り込み、武道館大会も見えてきた。今日は今後の取引につながるクライアントさんも見えている。こんな中堅インディー団体のレスラー(高木)に負けるわけにはいかないんだ!」
とフォールを跳ね返し、そこで坂井が攻めて高木がフォールされた時は
DDTを始めて10年、日本のエンターテインメント・プロレスの草分けとして会社も磐石の体制を取っている。しかし最近、それを脅かす存在が現れた。『マッスル』の奴らだ!武道館大会開催だと?武道館はDDTが先にやるんだ。マッスルごときには絶対に先を越させない!」
って感じでシュートな感情が混じってるのが素晴らしかったです。

でも高木はスローのあともフォローを返せず、「マッスル」勢の乱入もあって坂井の勝ち。「『マッスル』のチームワークに負けたよ。今日はお前が本気か試したかったんだ。これなら武道館も成功するんじゃないのか?武道館、俺もDDTも全力で応援するよ」

おおー。続けて、

高木「だがな、マッスルの武道館大会にあたって一つちょっと不安材料が出てきている。それはお前のプロレスラーとしての実績だ。プロデューサーとしてお前は評価している。しかしプロレスラーとしてのマッスル坂井は実績が足りない。だからお前が真剣に闘わなければいけない相手を俺が用意した。マッスルの世界観が一切通用しない男だ」

坂井「え、でも今、なんだかんだでプロレス界はこっち寄りですよ。そんな相手、いたら逆に会いたいくらいですよ」

ああ、確かに今のプロレス界は、「マッスル」の勢いがすごすぎるから、「景気がよさそうだから俺らも混ぜて混ぜて」って感じかも……って思ってたら、会場になんか聞いたことのある風の音が。こ、このテーマ曲は……「風になれ」!!

現・三冠ヘビー級王者、鈴木みのる登場!!!会場ドカーン。


そしてビビりまくる坂井を相手に試合開始。みのるが吼えるだけで怯える坂井。それに対し、坂井の攻撃は全て受けながし、組みつかれることすら拒否、顔面へのビンタと蹴りでボコボコにするみのる。
最初は「坂井!勝ったら三冠だぞ!(笑)」とか野次ってた客もドン引きするぐらい、打撃やキャメルクラッチ、逆片エビ等でとにかくズタボロにしまくる。

坂井がピンチになると、「エトピリカ」(情熱大陸のテーマ)が流れる。いつもならここでさっきの高木戦みたいに坂井が過去を語って、映像も出て、「負けるわけにはいかないんだ!」ってスローになるパターンなんだけど、そうなる前にスローモーションを無視して蹴りで潰すみのる。うわー。「マッスル」の世界が否定された!さすが鈴木みのる

このあたりから観客はズタボロの坂井を応援。坂井はなんとか反撃→でも通じない→エトピリカ流れる、客が一瞬盛り上がる→潰されて観客が笑いという流れを2回ほど繰り返し、3回目のエトピリカが流れたところで、坂井はスタッフに音楽を止めるように指示。

「もうちょっとプロレスやらせてください!!」

ここから空気が変わり、観客の大「サカイ」コールと、セコンドのマッスル陣営の応援の中、坂井は巨体を活かしたマッスルボンバー、スリーパーを切り返してのバーディクト等の、「マッスル」のリングではほとんど見せない得意技で反撃する。しかし日本一と言っていいぐらい権威のあるベルトを持ってるうえに去年の東スポプロレス大賞MVP、しかもガチンコ経験豊富な鈴木みのるに通用するはずもなく、数十発の顔面しばきあいのあとにゴッチ式パイルドライバーでフォール負け。

で、なんだかんだで鈴木みのるメカマミー戦とかやってたし、最近はパンクラス時代に比べて丸くなってるから、試合後も「楽しかったぜ」ぐらいのこと言うのかと思いきや空気はピリついたまま。

鈴木「おめーら、プロレスナメてんだろ。中途半端な気持ちでプロレスと俺に関わるんじゃねえぞ。いい加減な気持ちでやってたら俺に殺されるぞ?適当にやるんじゃねえよ。命賭けろって!!」

とマジギレ気味のマイク。坂井を含むマッスル勢はおろか、観客までもが「怒られた!」みたいな空気に。

そういえば今回のオープニング映像では、坂井が
「前回は好評だったけど、俺達がやったのは何だ?キン肉マンごっこに大喜利じゃないか!それでいいのか?」
「地方に行った時、地元のスナックのママがよ、常連客なのか愛人なのかよく分かんねー男を連れてきて『坂井さん、この人マッスルに上げてくれてやんねーろっかね?』、男も全然まんざらでもねー様な顔してよ、『俺もスローモーションとかだったら出来るかもしんねーな』とかそんなことさ、いっつも地方行く度に言われてるんだよ!他団体の控え室でも言われるよ!!地方の素人とか他の団体の人にそんなことばっか言われて、悔しくないのかよ!」
とか言ってた。「マッスル」みたいな一見ふざけたものをやってるけど、プロレスがナメられるのはよくない。それに対する答えが鈴木みのるとガチガチのプロレスをやることなのかと。あまりにもバラエティ化してきたことに対して自ら警鐘を鳴らす意味で、これは避けて通れなかった道なんだろうな、辛いだろうけどこういう回も必要だよな、と。

あとこういうチャレンジマッチ的な試合は、プロレスのパターンとしては基本中の基本なのかもしれないけど、シチュエーションによってはこんな感動的になるんだなーとか色々考えてたんですよ。不機嫌そうに控え室に帰っていく鈴木みのるの背中を見ながら。

そんなことを考えてたら、急に踵を返すみのるさん。あれ、どこ行くの?リングに帰ってくるわけでもないし……って、あー!そこは前半からほったらかしにされてたキスアンドクライ!え、そこに座るの?なんでなんで?さらに坂井を呼び込むみのる。隣に座る坂井。

そしてモニターにはスリング技術、要素のつなぎ、演技力、振り付け、曲の解釈等の点数が表示され、最後に「鈴木みのるレスリング技術・200点」。

世界フィギュア選手権はマッスル坂井鈴木みのる組の優勝です!」って、えーーーーー!そう来るかー!前半のフィギュアも、みのるの不機嫌そうなマイクも、全部が前フリかーーーー!くそー、してやられたー!でも気持ちいいー!笑っていいのか泣いていいのかわからねえーーーーーー!
会場、大「ミノル」コール。

まあプロレスを知らない人がこの日の試合だけを見ても、怖かった人が最後にオチを担当するっていうこのツンデレぶりは伝わるとは思うんだけど、鈴木みのるがかつて新日本でアントニオ猪木と戦ったこと、アポロ菅原とシュートマッチをやったこと、モーリス・スミスとの異種格闘技戦パンクラス等の歴史、プロレスへのカムバック等を知ってると感慨もひとしおですよ。懐が広すぎる……。

なんか本当にいいものを見させてもらいましたよ。でもプロレスは長く見れば見るほど楽しくなっていくジャンルなので、この日初めてプロレスに触れた一見さんも、この先ずっとプロレスを見てくれるといいな、とも思いました。

エンディングでは坂井が号泣してたので、ああ、「あの」鈴木みのるがこんなことやってくれたんだからそりゃ泣くよなー、って思ってたんだけど、坂井はマイクを取ると
「皆さんのおかげで世界選手権に優勝することができました……プロレスラーになってこんな大きいタイトル取ったのは初めてで……みんなありがとう」

そこかよ!最後まで完璧すぎる・・・。

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個人的に感動した部分はここら辺ですが、全体のレポは
Extreme Partyさんのレポートが詳細すぎるので必見。