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奇跡のタイミングで世に出た漫画・アフタヌーン四季大賞『ZNTV東京支局』(ネタバレあり)

今月の『アフタヌーン』の付録として『四季賞ポータブル2011夏』という小冊子が付いてます。
http://kc.kodansha.co.jp/magazine/index.php/13871
四季賞っていうのは、その名の通り季節ごとにやってるアフタヌーンの新人賞で、wikipediaによると「作品のジャンル、ページ数とも無制限という自由さが特徴で、月刊青年誌の賞としては応募数も多く(1回につき150〜200本ほどの応募がある)、レベルの高い新人賞として定評を得ている」だそうです。

で、今回の『2011夏』の大賞を取った『ZNTV東京支局』がとにかくすごかったです。

ツイッターの自分のTLにおいて数人が褒めてたので、ちょっと気になって「四季賞」で検索したら絶賛の声しかなかったから読んでみたんですが、「新人のわりにレベル高い」とかじゃなく、個人的には今年読んだ全漫画の中で一番衝撃を受けました。「マジでどこかさっさと映画化に動いたほうがいいんじゃないか?」と思うぐらい。
読み切りだから単行本にもならないと思うんで、ちょっと今からでもどうにかアフタヌーンを入手して、色んな人に読んでほしいです。詳しくは下にも書きますけど、今読まないといけないやつです、これは。

簡単に序盤のネタバレありであらすじを書いてみます。(でも本当はできればこれ読まずに先に漫画読んで欲しい!)

西暦2037年。18年前に落下した隕石のせいで東京は壊滅状態。再建は諦められ、高い壁で覆われた死の都となり、首都は大阪に移転している……という世界観でのお話。
テレビ局・ZNTVの九州支部で働く記者・芹沢は、飲みの席で偉い人に蹴りを入れてしまい、「東京支社」に左遷されることに。「え、東京に支社なんかあるの?そもそもまだ人が住んでるの?」と疑問を持つ芹沢。
東京都を囲む「壁」を超える前に「中でなにがあっても知らないよ」という誓約書を書かされ、中に入るといきなり銃撃戦に巻き込まれる。
迎えに来た東京支社の人間の話だと、東京には住み慣れた街を離れづらい人の他にも、外の世界で居場所をなくした人や、無法地帯となった街で非合法な取引を行うアウトローも住み着いているとか。銃撃戦も日常茶飯事とのことで、ZNTVからも身を守るための装備が支給される。
「こんなに毎日事件が起きてるなら報道しがいがあるぞ」と張り切る芹沢だが、「あれ?外にいた時には、東京でこんなことが起きてるって聞いたことない」と気付く。
局の人間に話を聞くと、日本において東京のことは最大のトラウマであり、「なかったこと」にしたいために報道では抹殺されているらしい。
「じゃあこのテレビ局は何のために存在して、なんでわざわざ危険を犯してまでを取材しているのか」と上司に尋ねると、「意味は必ずあるはず」と。
そんな中、街で子供の遺体が発見される。東京にはアウトローの他に、隕石落下のあとに生まれた孤児もたくさん住んでおり、自力で廃材を外に売ったりして生活しているらしい。
見つかった遺体はレイプされた形跡があり、しかもその犯人は、一度は孤児たちの手によって捕まえられたもののワイロで保釈されたうえで再犯に及んだことが判明。
そこで怒りを覚えた孤児たちは犯人を拉致し、ZNTVに乗り込み、電波ジャックを敢行する。「この街で起きていることを全国に伝えろ。さもなくば……」

長くなりましたがこんな感じです。

そして、前半の「マスコミが伝えなくて、他の人にはなかったことになっているけど、どうにもならない胸糞悪い世界がある」という絶望からの、後半はTVジャックという事件を通じて「俺たちマスコミはこういう機会を待ってたぜ」と言わんばかりの局の人達の対応がすごい。マスコミは本来こうあって欲しい!という理想の姿が描かれてるんですよ。

そしてこの漫画が、原発関連や韓流関連でマスコミの隠蔽体質が叩かれてる時期に発表されてるっていうのが奇跡だと思うんですよね。この賞の締切が4月なので、震災前から描いてるはずなんですよ。全179ページっていう単行本1冊分なみのボリュームがありますし。
で、179ページあるのに、構成力と「このテーマを伝えたい!」っていう力がとにかくハンパないので一気に読めちゃうんですよね。
そして読んだ後に気づいたんですが、作者のプロフィールには「報道の現場で働いていた」とあったので色々と納得しました。
「マスコミが言ってないこともあるけど、放送には世界を変える力があるから本当のことを伝えたい!」というテーマの力と、「このテーマを読者に伝えたい!」という作者の新人らしからぬ漫画力、そして今のタイミングっていう奇跡が合わさって、とんでもない漫画になってますよ。

あと今回の四季賞谷口ジロー特別賞を取ったショートショート『FOUR SEASONS』の、「童貞にしか投げられない、48種類に変化する魔球・セックス」を会得した非モテ男子が主人公の甲子園ギャグ『魔球セックス』も良かったです。

『ZNTV東京支局』と『魔球セックス』が同時に載ってる小冊子は『四季賞ポータブル2011夏』だけ!読もう!アフタヌーン

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感想を書いてるとこをいくつか貼っておきます。