さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

メタからベタへ、そこでやめときゃいいのにまたメタへ 『非公認戦隊アキバレンジャー』

http://www.akibaranger.jp/
非公認戦隊アキバレンジャー』が終わってしまったので感想を書きます。作品の性質上、「ココらへんが面白かったよ」っていうとこを書くとどうしてもネタバレになるのでそこはご勘弁を。あとバンダイチャンネルで有料配信されてる(1話と最新話は無料)ので興味を持った人は見てみてください。

始まる前は「秋葉原が舞台」「戦隊オタとかコスプレイヤーが変身する」「作中アイテム『ズキューン葵』のフィギュアが変身アイテム」「敵組織の名は『ステマ乙』」「痛車がロボに変形」などの情報から、「おいおい戦隊パロディなんてプロにも同人にもやりつくされてるから難しいんじゃねーの?わざわざ東映さん自らやる必要ある?」と思いつつ、東映さんがやるなら一応見てみるか……日南響子かわいいしな……みたいな感じで見始めました。

1話目を実際に見て、小ネタもさることながら、クライマックスシーンの

敵幹部「(アキバレンジャーを追い詰めた後、怪人に)あとは任せたわ」
レッド「フッフッフ……言ってしまったな、そのセリフを!スーパー戦隊における敵幹部の『あとは任せた』は!悪者どもの超鉄板敗北フラグだ!」
ブルー「さっきと戦力は変わらないのに負ける気がしない!」
イエロー「スペックは二の次にゃ!」
レッド「そう!スペックだけで決まる勝ち負けなんて、スーパー戦隊にはあり得ない!」

というやりとりでハートをわしづかみにされました。メタギャグなのに無駄に熱い!確かに特撮って、スペックがどうのとか作戦がどうのとかよりも「人々が平和を願う気持ちが生んだ奇跡」的なやつで大逆転勝利したりする(特に映画だと顕著)ので、「スペックだけで勝ち負けは決まらない」というセリフにはその辺も含まれてるんじゃないでしょうか。

その他のパロディ部分に関しても、「大人が全力で馬鹿をやる」という素晴らしさに感動します。確かにパロディのアイデア自体は同人誌等とかぶる部分ももしかしたらあるのかもしれないけど、「本物の戦隊の映像を使う」とか「敵幹部が穂花」とか「1/1サイズのハイクオリティ変身アイテム(定価12600円)を実際に売る」とかはパロディではできないわけですよ。

それに番組のキャッチフレーズに「良い子は見ちゃダメ!」というのがありますが、これは単にマニアックなネタとかちょいエロシーンがあるから見ちゃダメ!という意味ではないそうで、番組公式ページには

見ちゃダメ、という最大の理由は、本作品が「スーパー戦隊シリーズ」に関するメタフィクションであること。なかでも「スーパー戦隊シリーズはテレビで放送されるフィクション」といったことに言及してしまう部分。これは「過去の戦隊は歴史の中に実在したヒーローである」の視点で展開したゴーカイジャーなどとは真っ向から反するものであり。……まあそんな話を良い子に見られると困るという訳ですね。

とあります。確かに良い子はスーパー戦隊を実在のものとして信じて見て欲しい!それなのに公式でこんなことやるのは東映としてもリスクがあるはずで、実際、アキバレンジャーフィギュア発売時には、普通に本屋に置いてある特撮雑誌・フィギュア誌の表紙になってたので、いつ通りすがりのチビッ子達が「お父さんアレなーに?」って興味を抱かないか個人的に心配してました。
「大人が全力で馬鹿をやる」と一言でいえば陳腐になってしまいますが、こんなふざけた内容でも地上波番組なわけだし、番組の企画やおもちゃの販売を実現させるために、たくさんの大人たちがお金と時間かけてるんだなーとか想像すると泣けます。大人が全力で馬鹿やろうとするとなかなか難しいですよね……。

そんなわけで、1話で「東映が本気でパロディやるとこうなるんだな」っていうことに感動し、2話で「え、公認戦隊のキャラも出るの?」とビビり、5話のイエロー母上京回で泣いて「あれ?これもうパロディとか関係なく普通に好きだわ」とハマっていきました。

そして後半に入った7話で、これまで「アキバレンジャーは妄想世界(脳内)で戦ってるだけ」という設定が崩れ、敵幹部マルシーナが現実に進出してきたあたりから話は一気にシリアスに。博士親子の因縁など、急に話の縦軸がしっかりしてきます。
9話でいよいよ現実と妄想の壁が壊れ、秋葉原の住民が「ステマ乙」の怪人襲われて阿鼻叫喚という地獄絵図に!(ただし被害は「熱々の餅チーズ明太もんじゃを全身に貼り付けられる」という、熱いのは熱いけど死なない程度のやつ)
それなのに現実世界だからアキバレンジャーは変身できない!ヒロインが襲われるけど妄想じゃないから全く歯が立たずにピンチ!やっぱり妄想と現実の戦いは違う……という展開からのレッド覚醒!&主題歌BGM!

「俺は、妄想と現実の壁を壊すほどの痛い男!現実だろうがどこだろうが、変身して戦ってやるんだ!」

という、ダサかっこいいセリフからのリアル変身!という熱いシーンが最高すぎました。こういう「メタを突き詰めてベタになる」みたいな展開は大好き!

さらにそこから、「敵組織の内紛→普通にかっこいい新幹部登場」「アキバレンジャーが変身するごとに博士の身体を蝕むのであと数回変身すると博士が死ぬ設定追加」「痛いレッドがペンタゴンにスカウトされて、爽やかな新レッド登場」など、10〜11話はもうなんか普通に面白い話になってしまいます。特に11話なんか、わざわざオープニングナレーションをシンケンジャーの宮田浩徳さんに変えたり、オープニング曲も2番にしたり、戦闘時の名乗りも敵怪人デザインをこれまでのふざけたやつから正統派になってたりしました。「日曜の朝やれよ」としか言いようのない完全な戦隊物。
え、1クールしかないのにここから第2部!?そしてまさか、このシリアスなのが本編!?

しかし!

11話の途中でレッドが「もしかしてこの世界は『アキバレンジャー』という番組で、俺達はその登場人物なのでは?」「新キャラ登場はただのテコ入れなのでは?」と気づいてしまう超展開。さらには、それを信じない他のメンバーのために、画面下部に流れる「番組から素敵なプレゼントがあるぞ!詳しくはアキバレンジャー番組ホームページで!」というテロップを手づかみして見せつけ信じさせるという超荒業。めちゃくちゃすぎる!

ギャグだった前半から一気に終盤でまともになって、そのままかっこ良く終わったらそれはそれで伝説になったはずなんですよ。こっちは勝手に「この現実と妄想の壁が破れた後の世界のシリアスさを描くためにこれまでふざけてたのかー!前フリ長すぎてシビれる!」「この良い意味での裏切られ方、まどか☆マギカを見た時以来!」とか思ってたのに!驚きを返せ!

そんなこんなで、総集編を除くと最終話となる第12話では「番組外現実の黒幕は原作者・八手三郎だ!」「八手三郎はこの番組を打ち切りにしようとしている!登場人物がその存在に気づいたら話を思い通りに進められないからな!」ということで、「番組を終わらせようとする力」とか「最終回フラグ」という概念的なものに抗い、最後には「オワリ」という文字のCGと戦って終わるという、悪ふざけそのもので終わってしまいましたとさ。

でも「メタからベタへ」っていう展開そのものが割といろんなとこで使われすぎてベタにはなっている気もするので、そこからさらに一捻り加えて「メタ→ベタ→メタ」で落として「最後までくだらねーw」って思わせてくれたのはこの番組らしかった気がします。いつもふざけてる人がかっこつけたあとにテレ隠しでまたふざける、みたいな。
こんなことやったら色んな意味で2期は難しそうな気はするんですけど、超面白かったのでぜひとも続編に期待したいです!

非公認戦隊アキバレンジャー 1 [DVD]

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余談ですが、「メタからベタに行って、そこでやめときゃいいのに最後にオチをつける」といえば、自分が見た中で一番感動したプロレス興行である「マッスルハウス4」と同じ構成だな、と思いました。