思春期の動物たちが恋に部活に、そして種の本能に悩む学園青春群像劇「BEASTARS」(板垣巴留)
「BEASTARS(ビースターズ)」1巻が発売されました。電子版も同時発売です。新人の板垣巴留先生による初単行本ですが、2016年に一番ツボを突かれた漫画なので皆さんにお勧めしたいと思います。
- 作者: 板垣巴留
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2017/01/06
- メディア: コミック
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この作品は人間っぽく暮らす動物たちを描いた漫画で、世界観がとにかくいいんですよ。彼らは2本足で歩いて言葉も喋るのに、動物としての本能やそれぞれの動物の特性も残ってます。そんな中で草食動物と肉食動物が共存してはいるんですが、草食と肉食の間にはどうしても壁があるんですね。なぜなら肉食は怖いから。舞台はある学園なんですが、肉食と草食の間には「同じ学校には通ってるけど寮は別々」「肉食は基本的に乳製品や豆からタンパク質を摂るけど、稀に肉食が草食を襲う事件がある」「ただし肉食が草食を襲うのがこの世界で最大のご法度」という距離感があります。「BEASTARS」の前にやってた短期連載「ビーストコンプレックス」でもこの世界観で、トラとビーバーの友情や、オオカミとラクダによる大人の恋といった、「肉食と草食は(本来なら食う食われるの関係だけど)仲良くなれるのか」的なことをテーマに一話完結のオムニバス形式で綴られてました。
2足歩行の肉食動物と草食動物が共存する設定について、「ズートピア」じゃないかよ、と思う人もいるかもしれませんが、板垣先生は美大生時代からこういう作品を描いてたし(短期連載時代はまだ同人誌がネットで買えたんですがもう削除されてるので悲しい)、最近Twitterにアップしていた小学生時代の絵も「ブレてないな〜」と思わせるものでした。
小学生時代の絵です。ブレないなぁ?! pic.twitter.com/PfTpFK8uAq
— 板垣巴留:BEASTARS①1/6 (@itaparu99) 2016年12月18日
中学生ぐらいから海賊漫画のアイデアを溜めてた尾田栄一郎先生的な、「とにかくこれだけを描きたい」っていう狂気にも似た強い意志を感じますね。
で、その短期連載の「ビーストコンプレックス」がとにかく面白かったんで雑誌掲載時にネットで感想を検索しまくったんですけども、ダメな作品をナナメ読みしながら愛することが多いチャンピオン紳士(チャンピオン読者の愛称)たちも、「ビーストコンプレックス」は素直に絶賛してたんですよ。「なんでこんな作品がチャンピオンに」とか「これは近いうちにチャンピオン読者以外にも話題になるのでは」的な感想が多かった印象です。そしてその好評を受けた結果だと思うのですが、「BEASTARS」と改題して本格連載へ。短期連載時の設定を引き継ぎつつも、オムニバスではなく、ハイイロオオカミのレゴシを主人公にすえた物語としてスタートしました。
演劇部で裏方をやってるレゴシは大型肉食獣なのに気弱で繊細で、部活内の人間関係で色々あったり、その性格と戦闘力の差に悩んだり、ふとした瞬間に本能が出て草食動物を襲いそうになったりします。レゴシのほかにも、草食ながら学園の頂点(ちなみにこれがタイトルの「ビースターズ」という称号で呼ばれるポジション)に立とうとするシカや、ビッチ扱いされてほかのメスから嫌われまくってるウサギとか出てきます。思春期の少年少女を丁寧に描いた群像劇の中に、「動物の本能」という要素がうまいことブレンドされている漫画、と言えばなんとなく伝わりますでしょうか。「若い頃ってこういうことで悩むよね」という人間くさい“あるある”の中に、「動物が共存してる世界があったとしたら実際にこういう悩みがあるんだろうな」っていう“架空のあるあるっぽい出来事”が絡んでくるのが面白いです。
前述のビッチなウサギを例に出すと、平凡なドワーフ種のウサギのハルは、オスたちが「守ってあげたい」って勝手に寄ってくるタイプのメスなんですね。そのナチュラルなモテぶりのせいで、とある彼女持ちのオスから好かれてしまい、その彼女からは「私たちはウサギの中でも絶滅危惧種のハーレクイン種同士のカップルだったのに!あんたが遊びまくってること、学校中のオスに言ってやるわ!」ってキレられるという。ウサギ同士だけでこんなこと起きるんだから、色んな種類の肉食と草食が一緒に過ごす学校だとそりゃあ色々ありますよねー、みたいな作品です。
あとはとにかく絵がいいです。
本日発売の41号より板垣巴留先生の初本格連載「BEASTARS(ビースターズ)」が開幕!! 擬人化された動物たちによる学園ドラマです。集中連載「ビーストコンプレックス」で漫画界をざわつかせた新鋭の、さらなる挑戦にご期待ください。 pic.twitter.com/qmeRyIK8NZ
— 週刊少年チャンピオン編集部 (@Weekly_Champion) 2016年9月8日
↑にある画像、1話めの見開き扉なんですけど、それぞれの表情もいいので「いろんな性格の動物がいるんだろうな〜」ってわかるし、「みんな制服着るの大変そうだな〜」とか考え出すと止まらないんですよ。一枚絵だけで色々と想像が膨らみます。本編でも、例えばトイレのシーンでは背景に超巨大なのから小さいのまで、いろんなサイズの便器が描かれてるんですね。リスからゾウまで通う学校なんだからそりゃそうだよな、とかそういうのを考えるのが楽しいので何回でも読めます。絵の情報量からいろんな設定を想像せざるを得ない感じは「ドラゴンボール」とか「ワンピース」に近いかも。
「BEASTARS」はネットに試し読みがあるので、1話を読んで気になる人はぜひ単行本を買ってみてください。「BEASTARS」の1巻に「ビーストコンプレックス」は収録されてませんが、週刊少年チャンピオン2016年13号〜16号に載ってます。チャンピオンは電子版があるのでバックナンバー買いやすいですよ。いつかこっちも単行本にまとまるといいな。
■板垣巴留「BEASTARS」第1話 試し読み
https://arc.akitashoten.co.jp/comics/beastars/1
最後に余談ですが、作者の板垣巴留先生について、ネット上だと「板垣恵介の娘」って断定されて書かれてる場合もあるんですよね。でもあくまで「掲載誌と名字が同じ」っていうことと、「ビーストコンプレックス」初回掲載の翌週に、板垣恵介先生がチャンピオンの目次コメントで「持って生まれたな。板垣巴留。」と異例の言及をしてたことから出た噂ではないかと思います。公式には否定も肯定もされてないはずですよ。