さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

市民の平和は守るが視聴者の心は乱すおまわりさん、朝加圭一郎という男について(「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」第30話「ふたりは旅行中」感想)

9月2日に放送された「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」(以下、ルパパト)、すごくよかったですね……。僕は幼少期からスーパー戦隊シリーズをそこそこ見てるんですが、これが一番好きな回かもしれません。

だって先週流れた予告がこれですよ。

有給を取って温泉地に現れた圭一郎。そこには偶然にも同じく休暇中の魁利の姿が。仕事じゃないなら一緒に回ろうとの提案を断りきれず、二人の珍道中が始まるが…

快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー #30 ふたりは旅行中 | 東映[テレビ]


は????? なんで日曜朝から、敵対している男2人の温泉旅行を見せられないといけないんだ! 最高!!!

知らない方に説明しますと、ルパパトは快盗戦隊と警察戦隊という2つの戦隊が登場するんですね。ルパンコレクションという不思議な力を持った宝物を集める義賊的存在、“快盗”のルパンレンジャーと、正義のために戦う国際特別警察機構の戦力部隊・パトレンジャーという2組のヒーローがいて、犯罪集団ギャングラーと三つ巴の戦いを繰り広げているわけです。だから快盗戦隊と警察戦隊は基本的に敵対しているのに、そのリーダー同士の男2人が温泉旅行……!

ルパパトはこのレッドの男2人、夜野魁利/ルパンレッドと朝加圭一郎/パトレン1号の関係性が、とにかく絶妙なんです。そんな2人がメインの回なので、何かが進展するはずだという期待もあるわけですね。「2人の温泉回だ、わー!」とTwitterで騒いでたら知らない人に「え、いまの戦隊はこんなBLっぽいの狙ってんの?」と言われたりもしたんですが、そんな単純なものじゃないんですよ!ということは声を大にして言っておきたい。まあ夜野魁利役の伊藤あさひと朝加圭一郎役の結木滉星は、撮影現場でもイチャイチャしてるらしく、それを映画の舞台挨拶等でもよくネタにしてるんですがね……。

結木が現場での伊藤について「メイクしてたら、ひざの上に乗ってくる」と言うのを聞いて、犬飼は「ベストマッチじゃないですか!」とうらやんだ。
natalie.mu

で、この30話「ふたりは旅行中」がいかにすごかったか、っていう話をしたいんですが、まずパトレン1号/朝加圭一郎の話をします。なぜなら朝加圭一郎が好きだからです。

番組が「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」というタイトルなので、一応2つの戦隊が主人公扱いということにはなってるんですよ。「君はどっちを応援する?」というキャッチコピーもあるし。とはいえ、番組的にはルパン側が出番が多く、パトレンジャーはライバルポジションかなと。で、おそらくちびっ子にはルパンレンジャーのほうが人気あるのかなと思うんですが、大きなお友達にはパトレンジャーというか朝加圭一郎が大人気。日曜朝のTwitterトレンドワードに「朝加圭一郎」が並ぶことも珍しくありません。なぜかフルネームで呼びたくなる男、朝加圭一郎(最近では魁利に倣って「圭ちゃん」呼びも増えてきた気がしますが)。人々の安全と平和を守るおまわりさんである朝加圭一郎が、いかに人々の心を乱してきたのかという話からさせてください。


たぶんみんなそうだと思うんですが、みんな最初から朝加圭一郎が好きだったわけではないと思います。第1話の彼を見た個人的な印象は「なんかルックスもおっさんくさいし、キャラ造形も一昔前の熱血刑事って感じだし、これが本当に戦隊のレッド……?」といったところでした。「君はどっちを応援する?」って言われても、放送前の注目ポイントが工藤遥演じる早見初美花/ルパンイエローだったこともあり、ルパンレンジャー一択でしょう、と。でも自分が朝加圭一郎に対してまず「おっ?」と思ったのが、3話「絶対に取り戻す」の回。国際警察の3人が、素顔の快盗たちが住み込みで働くレストラン・ジュレに行った直後に、事件が起きたせいで何も食べずすぐ帰るんですね。でもその後、お店に再訪した朝加圭一郎が「先日は何も頼まず申し訳なかった」って謝ってたんです。それを見て「もしかしたらこの朝加圭一郎という男、育ちがいいのか?」と感じたのが最初のフックとなりました。


そして多くの視聴者が朝加圭一郎の朝加圭一郎らしさに気づいたと思われるのが、第4話「許されない関係」。パトレンジャー側、特に朝加圭一郎と警察側の紅一点・明神つかさ/パトレン3号を掘り下げる回です。

ここまでの印象だと「テンプレ熱血おまわりさん」と思われていた朝加圭一郎と並び、つかさも「よくいる男勝りのクールビューティキャラかな」という印象でした。ですが、まず序盤、密室から人間が消えたという事件現場に向かうパトカーの車内での、陽川咲也/パトレン2号も含めた3人の会話。

圭一郎「おのれギャングラー、必ず悪事を暴いてやる!」
咲也「まだギャングラーの仕業と決まったわけじゃないですよ」
圭一郎「人が密室から消えてるんだぞ!」(運転席の咲也につっかかる)
つかさ「どうどう、圭一郎、あぶない」
咲也「さすがつかさ先輩、落ち着いてますね」
つかさ「慣れてるだけだ。圭一郎とは訓練生時代からの腐れ縁だからな」

「熱血な1号、クールビューティな3号の腐れ縁同期生コンビ+後輩キャラの2号」という、ベタながらバランスのいいトリオであることが伺えます。おれも「どうどう」って言われたい。

咲也「じゃあつかさ先輩の弱みなんかも知ってたりするんですか?」
圭一郎「弱み? 思いつかんな……」
つかさ「フフッ。圭一郎に見抜かれるような私じゃない」


続くこの会話を聞いても、「ふーん、弱点がないなんて、つかさ先輩は見た目通り、しっかりしたお姉さんキャラなんだな」というイメージを抱かされました。しかしこれは前振りにしか過ぎなかったのです。詳細は省きますが、なんと今回の事件の流れで、「つかさはかわいいぬいぐるみが大好き」「誰も見てないところではぬいぐるみに顔をスリスリして癒やしを得ている」という意外な一面が明らかに。

これがみんなにバレてつかさは顔を真っ赤にするんですが、ここで特筆すべきは、圭一郎はそれを昔から知ってたというんですね。

「見てたのか!?」と慌てるつかさに対し、「だってお前、昔からやるだろ。訓練生時代も」とお菓子をもりもり食べながらさらっと話す圭一郎。普段からクールにしてる女子にそんなギャップがあっても、笑いもしない、人にも言わない優しさ。この話の冒頭の「弱み? 思いつかんな……」も違った意味合いが出てきますよね。こんなおもしろネタを弱みと思わないなんて……いや、もしかして極端に他人に興味がないだけかも……とこの時点では思わなくもなかったんですが、次のエピソードを見てみましょう。

6話の「守るべきものは」。これも警察戦隊側を紐解くお話です。5話でパトレン1号がルパンレッドに負けちゃうんですが、6話冒頭のルパンレンジャー・パトレンジャー・ギャングラーでの三つ巴の戦いで、パトレン1号がルパンレッドにこだわりすぎたせいでギャングラーを取り逃してしまうんですね。ここでつかさが圭一郎にビンタ!からの、「国際警察に配属されたばかりのことを思い出せ」ということで、回想シーン。回想はつかさが新人時代、お金のために戦力部隊に入ったという意外なことを言う場面から。

圭一郎「ギャングラーを最前線で相手にする戦力部隊か……」
つかさ「給料もいいし、年金も充実してる」

圭一郎「お前はなんのために国際警察に。志とかないのか?」
つかさ「そんなの私の自由だろ」
圭一郎「いや生活も大事だ。否定はしない」

要はこのあと、「国際警察になったことで手に入れた力で守るのは己のプライドより市民の平和だ」みたいなことを圭一郎がつかさに対して言っていた(ので圭一郎はそれを思い出せ)、というのが大事な話なんですが、朝加圭一郎という人間を語るには「生活も大事だ。否定はしない」がポイントだと思うんですね。つかさがかわいいぬいぐるみを好きなのも、お金のために国際警察になったのも(お金が必要な理由もあとでわかるんですが)、あくまで個人の考えを尊重して否定しない。一見するとテンプレのカタブツで馬鹿正直な熱血キャラだけど、たまに見せる気遣い、品の良さ、育ちの良さみたいなところが絶妙なバランスで垣間見えるのが、「朝加圭一郎らしさ」ではないかと思います。これはたぶんメイン脚本の香村純子さんの描写が丁寧なことによるものが大きいので、香村さん以外が脚本を書いたときには、朝加圭一郎がただの熱血バカになってることもあるかな……という気もしますが、それぐらい朝加圭一郎というキャラは絶妙なバランスなうえに成り立っているということではないかと。

この4話、6話で視聴者が「朝加圭一郎らしさ」に気づいてからは、朝加圭一郎人気は不動のものになったのではないでしょうか。この時期から、Twitterでは朝加圭一郎関連のクソ真面目さ、不器用さをかわいさと捉えるような2次創作がめちゃくちゃ回ってくるようになったと記憶しています。特に特撮オタクばっかりフォローしてるわけでもないのに、例年より明らかにオタクたちが騒いでいるんですよね……。

続く7話は初美花と咲也のデート回だったので、さすがに朝加圭一郎の出番は少なかったものの、初美花をデートに誘う咲也に「彼女に本気なのか?」と、さらに「可愛いコとは仲良くなりたいじゃないですかあ」とチャラく答える咲也には「ふしだらな!」と真面目な顔で言い放つ朝加圭一郎。

この昭和のお父さんみたいな二言だけで朝加圭一郎の好感度が爆上がりする回。あー、おれも朝加圭一郎に恋の相談をして、結婚を視野に入れたクソ真面目なアドバイスをされたあと「私が好きなのは貴方なんです」って伝えて固まる朝加圭一郎が見たい。

その後も

  • ギャングラーによって一時的に性転換させられたところ、Twitterのトレンドに「江角マキコ」が入る朝加圭一郎「(第11話「撮影は続くよどこまでも」)

  • 子供のことは好きだけど子供には好かれない朝加圭一郎(第14話「はりめぐらされた罠」)

  • 猛毒攻撃を食らうが病院から抜け出して戦いに来てしまう朝加圭一郎(第15話「警察官の仕事」)

  • ギャングラーによって見させられた夢の世界で、理想とする自分の姿が「最高のヒーローになれた」とかじゃなく、「事件ゼロの平和な世界で警察官になって暇になった」だった朝加圭一郎(第17話「秘めた想い」)

  • 私服が完全に休日のお父さんな朝加圭一郎(第20話「新たな快盗は警察官」)


などいろいろトピックがあるんですが、もはや我々の語彙は「今週も朝加圭一郎は朝加圭一郎っぽい」「朝加圭一郎のこういうところが本当に朝加圭一郎」「朝加圭一郎かわいい」しかなくなってしまいました。

特撮系雑誌のルパパト関連インタビューもいろいろ追ってたんですが、なかでも印象深かったのは、ハイパーホビーvol.9での朝加圭一郎役・結木滉星インタビュー。「朝加圭一郎、すごい人気ですね」「手応えは感じてますか」と聞かれてるんですが、印象的な部分を抜粋します。

結木 周りからも言われたりはしますね。俺はSNSとかネットとか余り見ないので、よくわからないんですが……メイクさんとかに「圭一郎バカウケだよ。なにやっても可愛いって」って、嫌そうな顔で言われるんですよ。嫌そうな顔することないのに(笑)。でも本当に、可愛いと思われたくてやってはないんですよ。圭一郎はこういう風にするんだろうなと、考えての演技です。
編集部 あざとい演技ではないんですよね。可愛さを求めてるわけでもない。
結木 俺からしてみたらどこが可愛いんだよって思うんですけどね、これの。

朝加圭一郎を演じてる人が「朝加圭一郎、人気ですね、可愛いですね」って話題を振られて、「SNSとかよくわからない」「どこが可愛いんだよって思うんですけどね、これの」って答えるの、めちゃくちゃ朝加圭一郎じゃないですか? 特に「これの」の部分。自分を指して「これ」って。

さて、ようやく30話「ふたりは旅行中」の話に戻ります。最初に「2人のレッドの関係性が絶妙」と書きましたが、29話までの2人のキャラクター及び関係性をざっくりまとめると、こんな感じでしょうか。

夜野魁利/ルパンレッド

  • ノリが軽く飄々としているように見えるが芯は強く頭がキレる、快盗戦隊リーダー。
  • 快盗戦隊になった理由は「ギャングラーに氷漬けにされた兄を取り戻すため」(ルパンコレクションを全部取り戻すとどうにかなる説がある)。
  • 快盗戦隊3人は、警察戦隊3人の正体を知っている。
  • ルパンレッドとしては、ルパンコレクションを集めるためにはパトレンジャーは邪魔。
  • どんな状況でも体を張るパトレン1号には「本当に厄介なやつ」「かなわない」と評価。
  • 序盤は圭一郎のことを「熱血おまわり」と小馬鹿にしていたが、彼の正義感や戦う姿勢に感銘を受けたのか、「圭ちゃん」と呼ぶようになり、徐々に距離が縮まる。

朝加圭一郎/パトレン1号

  • 市民の安全を第一に考える警察官。
  • 強い正義感を持っているが、それゆえに序盤は快盗を相手にすると暴走して周りが見えなくなりがちだった。
  • 魁利たちが働く店の常連客ではあるものの、快盗戦隊の正体は知らない。
  • 魁利が荒れて夜の街を歩いているところにも「警察官として危ない目に合いそうな人を見過ごすわけにはいかない」「そんな顔して歩いていたら厄介な連中に絡まれる」と言って魁利の相談に乗ろうとした。
  • ルパンレッドに対しては「快盗(=犯罪)という手段を取った段階で間違っている」という姿勢だったが、徐々に「快盗にも事情はあるかも」と理解を示すようになる。


図にするとこんな感じです。朝加圭一郎がルパンレッドと夜野魁利を同じ人だと思ってないので三角関係ぽくなっちゃってる。
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ほかにもちょっとややこしいですが、20話から登場した新キャラ・高尾ノエルがルパンレッドを騙してルパンコレクションを奪ったとき、ルパンレッドが「誰かと違って卑怯なおまわりさんだ」って言ってたのも魁利と圭一郎の関係性を表すセリフとして印象的。

本人がいないところで「誰か=パトレン1号」を思い出して「あいつは正直」って認めてるっていうのがね……。あと「誰かと違って」って別の男と比べる言い回し、なんかエッチだし……。

そんな魁利と圭一郎が旅する30話。あらすじには「有給を取って温泉地に現れた圭一郎。そこには偶然にも同じく休暇中の魁利の姿が」とあり、予告段階では「この2人、そんな仲いいのか?」と思ってましたが、実は圭一郎は、パトレンジャーの武装・VSビークルを盗んだ強盗団と取引をするために温泉地に出向き、魁利はその偵察という構図でした。とはいえ「いいじゃん一緒に観光しよう」と魁利に言われた圭一郎が断れないのもまた圭一郎らしさ。2人でご飯やお饅頭を食べたり、射的を楽しんだりするんですが、2人の空気感がめちゃくちゃ兄弟っぽいんですよね。しっかりした兄の圭一郎と無邪気な弟の魁利。

ここで街を歩いていた2人は迷子の女の子を見つけます。圭一郎の「子供は好きだが子供には好かれない」というスキルが発動して警戒されるものの、魁利のサポートにより「両親に買ってもらった髪飾りをなくして、探してるうちに迷子になった」という事情を聞き、交番へ。

子供を預けた圭一郎は、即座に街にダッシュして髪飾りを探しに行き、対する魁利はお土産屋に同じ髪飾りを買いに行きました。そして魁利が交番に戻ってくると、髪飾りを見つけた圭一郎が、汗だくになりながらもまっすぐな笑顔で「あったぞー!君の宝物!」とダッシュで走ってくる。



自腹で済まそうとした魁利は引け目を感じ、髪飾りをしまってしまいました。


うおお! 魁利も間違ってないよ! 圭一郎が「宝物」ってキラキラした言い方しちゃうから、金で済ませようとしたのが余計に悪そうに聞こえるけども!手段までも正しくあろうとする圭一郎と、結果を残すために手段は問わない魁利というのも、警察と快盗の対比になっている気がします。


いつもクールで飄々とした魁利のこと、このときもサラッと受け流すと思いきや、圭一郎に心配されるほど浮かない表情。なぜならこのとき魁利には、幼い頃に兄と2人で旅行に行った際に、迷子の女の子を助けた兄の姿がフラッシュバックしていたのです。

ここで魁利と兄・勝利について。第5話の回想では「兄との言い争いの直後に兄がギャングラーに襲われて氷漬けにされて消滅する」というものだったので、仲が悪いし後味悪いなとは思ってたんですが、第9話「もう一度会うために」でも、魁利は「昔は兄のことが好きだったが、成長するに従って優秀な兄と比べられるのをコンプレックスに感じられるようになった」ということを告白しています。仲が悪い(というか魁利が兄に素直になれない)ように見えたのはそれが原因なんでしょう。


第9話での映像は、「兄はバスケがうまかったけど自分はそうでもなかった」というものでしたが、この30話では「兄は迷子の女の子を助けたけど、自分は女の子に対して『俺の兄ちゃんなのに』と嫉妬してしまった」というコンプレックスが描かれています。さらに「まっすぐに髪飾りを探した圭一郎と、お金で済ませようとした自分」という対照的な状況から、兄と圭一郎を重ねてしまって落ち込み、圭一郎に心配されるも「べつに……圭ちゃんは清く正しい人間だなと思って」と嫌味までいいはじめる。

ここで8月にマイナビニュースで公開されたインタビューを引用します。

『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』伊藤あさひ、役の根底に監督の言葉「魁利の兄と圭一郎は"似ている"」
――第1、2話や今度の劇場版を手がけられたメイン監督の杉原輝昭さんからは、演技についてどのようなアドバイスをもらいましたか。
一番初めの撮影のときに杉原監督から言われた言葉があります。それは「魁利の兄と圭一郎は"似ている"」ということです。圭一郎のまっすぐな正義感と、お兄ちゃんの優しいまっすぐな部分が重なって見える分、快盗をやっている魁利にとっては辛いんじゃないかな、ということを杉原監督から言われました。その言葉が僕の心に染みて、魁利の役作りにそのことを生かしていこうと思いました。
news.mynavi.jp

なるほど。インタビューを読んだ時点では、「魁利の兄と圭一郎が似ている」というのは裏設定かと思っていたんですが、ここで脚本にも反映されてきましたね。子供を助けた後、魁利に「ガマンして待っててくれたじゃないか」とフォローする兄と、同じく子供を助けたあとに「あのとき助け舟を出してくれた(子供になつかれない圭一郎を変顔にした)じゃないか」とフォローする圭一郎。自身を「冷たい人間だ」と自嘲する“夜”野魁利に「そんなことはない」と手を差し伸べるのが“朝”加圭一郎なんですよね……。魁利に圭一郎はまぶしすぎる。

その後いろいろあって圭一郎が強盗との取引で消防車型VSビークル・トリガーマシンスプラッシュを手に入れたところにルパンレッドとして駆けつけ、トリガーマシンを圭一郎から横取りした魁利。しかし、先の一件でテンションが下がりまくっているためどうにも戦闘に身が入らず、圭一郎に「どうした? お前にしては甘い戦い方だな」と言われる始末(戦いながら相手の調子の悪さに気づくのも朝加圭一郎っぽい)。

そんな戦いの中、離れた場所で戦闘をしているつかさから圭一郎のもとに「こっちで大火災が起きてるのでそのVSビークル(消防車)が必要だ」と連絡が入ります。これを聞いた圭一郎がなんと「ここからなら、俺のパトカーよりおまえの飛行機のほうが早い」とルパンレッドに命令。ルパンレッド(犯罪者)に警察が武装を渡したうえで、“これで火事を沈めて市民を助けろ、なぜならそっちのほうが合理的だから”と言ってるわけですね。当然、敵対しているはずのルパンレッドは「なに言ってるんだよ」となるわけですが、圭一郎はただ「行けぇぇぇぇぇ!」と絶叫。

普段「おのれ快盗!」と言ってるルパンレッドに対して「おまえなら必ずギャングラーによる被害を食い止めてくれるはず」と信用してる圭一郎。本当は(兄に似た)圭一郎のような行動が素直に取れたらいいということは頭ではわかっていながらコンプレックスをえぐられる魁利。圭一郎の光が眩しくなればなればなるほど魁利の影がくっきりと出てくるわけです。30話を終え、魁利役の伊藤あさひTwitter

「ついに、物語の中でも、魁利が、圭一郎にお兄ちゃんを重ね始めました。 弱点になっていきますね、、。」
と書いています。そうか、兄に似ているっていうのが弱点になるんですね。(あとこのツイートに「なんども聞くけど、付き合ってるの?」とリプライする工藤遥~~~!)

快盗をしてでも助けたい兄と似てる朝加圭一郎を騙している罪悪感もあるだろうし。そんな魁利は、巨大ロボ戦でギャングラーを倒した後の決め台詞「アデュー」もテンション低めで、30話の最後まで重い空気を出していました。しかも最後に発したセリフが「似てんじゃねえよ、めんどくせえ」
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……!

朝加圭一郎は視聴者の心だけじゃなく、夜野魁利の心まで乱し始めてしまいました。
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これまでの夜野魁利/ルパンレッドと朝加圭一郎/パトレン1号の関係もわりとややこしかったのに、そこに魁利から圭一郎の「(自分も本当はそうなりたいというコンプレックスのある兄に)(ケンカをしたあとに消滅してしまった兄に)(快盗という犯罪行為をしてでも助けたい兄に)似てんじゃねェよ、めんどくせえ」というクッソクソに重くてデカい感情が乗っかってしまいましたよ。面白すぎる。どうなる、「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」!当ブログは朝加圭一郎を応援しています! たぶん終盤で訪れるであろう「ルパンレンジャーの正体を知った朝加圭一郎」がどういう顔をするのかを見るために、皆さんも今からでも追いかけましょう!

追記
ルパパトいうか戦隊は見逃し配信が少ないんですが東映特撮ファンクラブは過去戦隊いろいろも含めて見放題、ビデオパスは最新話が見れます。あと両サービスともルパパトのオリジナルストーリー独占配信をやってて、東映特撮ファンクラブのほうは「咲也が加入する前にもう1人、幻のパトレン2号がいた!」っていうシリアスめな話なのに対し、ビデオパスは「ルパンレッドとパトレン1号の背中が不思議な力でくっついちゃった!どうなっちゃうの~?」みたいな、温泉回以上に「どういうつもりなんだ」なやつです。
www.youtube.com

「動物戦隊ジュウオウジャー」45話〜46話を見て「おれはこれが見たくて特撮を見てんだよ!」って感動したのでどこらへんが良かったのか全部説明させてください

動物戦隊ジュウオウジャー」の45話〜46話が良すぎました。ニチアサで初めてガチで泣いたので、その話をします。

知らない人に説明しますと、ジュウオウジャーという戦隊は、初期メンバーは人間1人、ジューランドという異世界から来たジューマンという獣人みたいな種族(ただし人間の姿にもなれる)が4人というチーム編成なんですね。

だからレッドのジュウオウイーグルこと風切大和は、人間界のルールがわかってないジューマン4人に対して唯一、常識人としてツッコむポジションで、序盤ではこのあたりがコミカルに描かれる場面も多かった。イーグルは武器もムチっぽい剣なので、それも相まってジュウオウジャー初期メン5人は「動物使いと動物4匹」みたいなイメージがあります。

レッドがツッコミ役って実はけっこう珍しいんではないでしょうか。ここ10年ぐらいのレッドは、「戦闘力は一番高いけど最年少だったり天然だったり俺様キャラだったりで精神的には未熟な面もある」というキャラが多く、しっかり者のツッコミ役は別にいるイメージ。でも大和は、レッドという本来ならリーダー的ポジションなのに、ジューマンたちに振り回されて気苦労が絶えないんです。とはいえ「まあいっか」って感じで明るくみんなと仲良くしてるし「振り回されて情けないヤツ」的な印象もない、超優等生キャラ。途中から加わる6人目、ジュウオウザワールドこと門藤操が度を越した卑屈でコミュ障でめんどくさいキャラなんですが、その操とも普通に仲良くなれるのが大和です。


あと、いま上映中の「ジュウオウジャーVSニンニンジャー」っていう映画があるんですけど、この「VS」というシリーズはその名の通り現役戦隊と前年の戦隊が戦うシーンがお約束なんですよ。お互いの誤解だったり、敵の策略にハメられたりが原因で。そのときに「え、こんな理由で戦っちゃうの?」っていう感じで争い始めるので、戦隊メンバーはそれまでのキャラが崩壊してギャグっぽくなることも珍しくないんですが、「ジュウオウVSニンニン」では、ほかのメンバーが争ってる中で、大和だけはちゃんと「俺だけはしっかりしないと」って言ってたので、やっぱり歴代屈指の優等生レッドではないかと思います。

そんなふうに基本的に常識人で優等生でおまけに戦闘でも強い、完璧に見える大和だけど、唯一のウィークポイントが家族の話でした。大和は叔父さんの家に居候してて、そこにジューマン4人も住んでるんですけど、なんで大和が叔父さんと住んでるのか、両親はいないのか、などの話は中盤まで語られませんでした。っていうか、家族の話になると大和がはぐらかしたり、叔父さんが無理やり話題を変えて、視聴者に謎を残してたんですよね。家族の話をされたときの大和が「その話題に触れるな」的な怒り方をするならともかく、避けることに慣れてるというか、笑顔でさらっとごまかすっていうコミュニケーション能力の高さもまた、逆に闇が深い感じがあったりして。

大和と父の関係について、中盤で「母親は死んでて、父親は生きてるけどどうやら大和と仲が悪い」ということが発覚したり、操が入院した病院の医者が大和のお父さんだったことで偶然にして唐突な親子の再会が実現したりはしてたんですが、なかなか親子関係の詳細は語られず、いよいよ本題となる45話です。

ふとした瞬間に、ジュウオウタイガーことアムちゃん(ホワイトタイガーのジューマン)と大和が2人きりになったんですが、そこでアムちゃんが「大和くんは自分のお家に帰らないの?」と問いかけます。病院での大和とお医者さんのやり取りを見て、「あの人がお父さんでしょ?」と1人だけ気づいていた彼女。ここで大和から父との軋轢について語られ、「大和の幼少期、母が死んだ時に父親は急患が入ったことで、母の死に目に間に合わなかった」ということが原因であることが発覚しました。

そこから大和は「お前なんか父さんじゃない」という「美味しんぼ」の山岡士郎みたいな状態に突入したと。まあお父さんにだって事情があったのは理解できるけど、子供はそれを理解できずにトラウマになることもわかりますよね。

この告白を聞いたアムちゃんと大和のやり取りが超良かったんですよ。

アム「そっくりなんじゃない? 大和くんとお父さん」

大和「……どこが」
アム「大事なことを全然話さない。まわりがどう思ってるかわかってない」
大和「………………!」
アム「一度、ちゃんと話してみたら?」
大和「無理だよ今さら……」


アム「なんで? 同じ世界にいるのに? いつでも会いに行けるのに? たった2人の親子でしょ

アムというキャラはですね、序盤は単に「計算高いメス」っていう印象が強かったんです。


だけど話が進むにつれ、実はメンバーのことを一番見ていて、メンバー同士の確執を中和する、バランスを取るという一面も出してきてたんですね。彼女の象徴的なシーンとしては、最初のほうで書いたコミュ障の操くんに対して、「普段は卑屈だけど誉められると超がんばるし超強い」という彼のめんどくさい性格を知ったうえで、ちゃんとおだてて調子に乗らせることができるんですよ。


相手を観察したうえで、必要とあらばボディタッチも辞さない。恐ろしい女ですよ。その洞察力をもって、大和に対しても「(憎んでいる)お父さんとそっくり」って、めちゃめちゃ痛いところをついてくる。

大和に父親の話を聞き出すときもですね、2人きりになった瞬間に「今しかない」って感じで一度ハッと気づいた深刻な表情をしたのち、がんばって笑顔を作ってから話しかけてるんです。「まわりがどう思ってるかわかってない」のセリフも、(もー、しょうがないな)と諌めるような「わかってないっ」っていう感じで絶妙な可愛らしい、かつ優しい言い方でした。

「同じ世界にいるのに? いつでも会いに行けるのに? たった2人の親子でしょ」っていう部分に関しては、アムは「帰りたくても元の世界(ジューランド)に帰れない」「ジューランドではお母さんと2人暮らし」っていう背景があるんです。それを踏まえて、自分とお母さんのことを思い出したら辛いだろうに、明るく振舞いながらの(でも目は笑ってない感じで)「なんで?」とグイグイ迫りながらの「たった2人の親子でしょ」ですよ。アムの小悪魔というか、ぶりっこな面って、言い換えれば自分の感情を押し殺して、計算で笑顔が作れる女なわけですよ。それがここで活きたわけですね。演じる立石晴香さんもこのキャラに合っててかわいいし、芸達者でした。

とはいえ、戦闘が始まってしまってこの会話は一旦終了。アムちゃんがせっかく追い詰めたのに! その後なんだかんだあって46話です。


ジュウオウジャー6人で強敵・アザルドの元へ向かっている時に街から火の手が上がるんですが、どうやら大和の父が働く病院も被害にあっている。ここでの大和とアムのやり取りもすごいんです。

アム「大和くん、こっちは任せてお父さんのとこに行きなよ」
大和「いや、今はアザルドを……」
アム「それを言い訳にしないで!2度と会えなくなってもいいの? 私達の前でそれを選ぶの!?


大和「……分かった」

前回は優しい言い方だったアムちゃんが、ここでは泣きそうな声で絶叫。あーあ、優しいアムちゃんを怒らせちゃった。「私達の前でそれを選ぶの!?」は、「もう両親と会えないであろう私達の前で、死にそうな父親を助けられるチャンスがあるのに助けないの?」ってことですからね……。アムにここまで言われたら大和も動かざるを得ません。冒頭に書いた、ニチアサで初めて泣いたシーンはここです(※追記:ここのアムちゃんは「いつまでもうじうじしてる大和に怒った」というより「大和をけしかけるためにこういうキツい言い方を選んだ」みたいなほうが近いのかも。優しさが見える叱り方だった)。公式サイト見ると、やはり何度も撮り直すほどに力が入ってたみたいですね。

そして大和が病院にたどり着くと、ちょうど父の上に瓦礫が落ちてきたところでした。なんてタイミングだ。そして大和が「父さん!」と父に覆いかぶさったところで、7人目のジュウオウジャー、ジュウオウバードこと鳥人間のバドさんが飛んできて瓦礫を破壊。父は助かります。

大和とバドの関係を振り返ると、大和は幼いころ、山でケガして倒れているところをバドに助けてもらったことがあるんです。ジューマンじゃない大和がジュウオウイーグルに変身できるのは、ジューマンのバドから寿命と力をわけてもらったから。その後もバドはなぜか大和のピンチを何度か救ってます。

バドが大和と父を助けたあとには、父とバドの間で「バド……!」「お久しぶりです」という会話が。父さんがバドと知り合いだったことがわかり、大和は困惑しますが、バドが「俺の命の恩人だ」と告白。


ここで色々と話が繋がってきました。バドが人間に襲われて(人間から見たら化物ですからね)重症を負ったのを、大和の父が助けたことがある。しかもそれが大和の母親が死んだ日だった。つまり父が妻=大和の母の死に目に会えなかったのはバドの治療をしてたから。さらに、バドが大和をこれまで何度も助けたのは、恩人の息子だから。

バドが大和の父に助けられたシーンの回想で、

バド「なぜ(人間じゃない)俺を助ける」
大和の父「生き物は皆、どこかで誰かと繋がっているものだ」

というやり取りがあったんですが、大和の母も、死ぬ間際に大和に対して「この星の生き物は、みんなどこかで繋がっている。だから大和は1人じゃない」って伝えてるんですよ。

その言葉を大切にしてるであろう大和は、劇中の要所要所で「この星の生き物は、みんなどこかで繋がっている」って繰り返し言ってきたし、その「繋がり」を絶とうとするヤツは許さないという姿勢を見せてきた。だけどそれは母だけじゃなく、憎んでたはずの父の信念でもあったわけです。この信念は、もしかしたら父が母に教えたことなのかもしれない。父親はこの過去が描かれるまで、「あの大和がここまで嫌うからにはどんだけ人でなしなのか」と思ってたけど、実はちゃんとしたお医者さんだったこともわかりました。バドとの再会のあとでも、被害にあった患者さんたちを励ましたりしてますからね。やはり大和と似てて、不器用なだけなんでしょう。海原雄山かよ。

正直、これまで「生き物はみんな繋がってる」っていう壮大なテーマでずっとやってきたのに、なんで急に大和と父親の個人的なケンカを掘り下げるんだろう? って思ってた部分もあるんですけど「こう繋げてくるか!」と唸りましたね。

そして「俺がいま生きているのは、父さんがバドさんを助けたから」と気づいた大和は、感情を持て余して混乱し、「うわあーーー!」と叫びながら走り出します。

そのままほかのメンバーが戦ってる場所へ向かうために変身するんですが、「俺は……俺はァァァァーーー!」と叫びながらイーグルになって飛んでいくシーンはたまらないものがありました。あの優等生の大和が……。変身用のキーワードである「本能覚醒!」もここではちょっと違う意味に思える感じでした。

大和はメンバーと合流し、敵のナンバー2ぐらいである強敵・アザルドに立ち向かうんですが、ジュウオウイーグルが剣でラッシュするシーンの合間合間に、人間の姿の大和が「俺は……俺は……!」と感情を剣にぶつけるシーンが挿入される演出も新鮮でした。


ラストに近い強敵との対決、かつ大和の諸々が明らかになった超重要な戦闘シーンで、特撮的に目新しい絵を入れてくれるのはうれしい。そもそも人間態の大和が剣を操る場面ってこれまで基本的になかったはずなので、このためにわざわざ剣さばきを練習したのかも、っていう点も含めた感動がありました。


そのあと戦闘があり、さしあたって大和と父親の話は来週に持ち越しみたいですが、とにかくジュウオウジャーは最高です。子供向けのニチアサなのに、なんでこんな重いテーマやってんだ?と思う人もいるかもしれませんが、これってニチアサじゃないとできない話なんですよ。人間と異種族の間のファンタジーっていう面でもそうだし、そもそも50話近くかけてドラマを紡いでいくっていうのがほかの枠ではなかなかできないですから。こういうのを見たいから、大人になっても特撮見てるんですよ!というお話でした。ジュウオウジャーはあと2話、次回作の宇宙戦隊キュウレンジャーからでもいいので戦隊やライダーを、大人の皆さんにも見てほしいです。

思春期の動物たちが恋に部活に、そして種の本能に悩む学園青春群像劇「BEASTARS」(板垣巴留)

BEASTARSビースターズ)」1巻が発売されました。電子版も同時発売です。新人の板垣巴留先生による初単行本ですが、2016年に一番ツボを突かれた漫画なので皆さんにお勧めしたいと思います。

この作品は人間っぽく暮らす動物たちを描いた漫画で、世界観がとにかくいいんですよ。彼らは2本足で歩いて言葉も喋るのに、動物としての本能やそれぞれの動物の特性も残ってます。そんな中で草食動物と肉食動物が共存してはいるんですが、草食と肉食の間にはどうしても壁があるんですね。なぜなら肉食は怖いから。舞台はある学園なんですが、肉食と草食の間には「同じ学校には通ってるけど寮は別々」「肉食は基本的に乳製品や豆からタンパク質を摂るけど、稀に肉食が草食を襲う事件がある」「ただし肉食が草食を襲うのがこの世界で最大のご法度」という距離感があります。「BEASTARS」の前にやってた短期連載「ビーストコンプレックス」でもこの世界観で、トラとビーバーの友情や、オオカミとラクダによる大人の恋といった、「肉食と草食は(本来なら食う食われるの関係だけど)仲良くなれるのか」的なことをテーマに一話完結のオムニバス形式で綴られてました。

2足歩行の肉食動物と草食動物が共存する設定について、「ズートピア」じゃないかよ、と思う人もいるかもしれませんが、板垣先生は美大生時代からこういう作品を描いてたし(短期連載時代はまだ同人誌がネットで買えたんですがもう削除されてるので悲しい)、最近Twitterにアップしていた小学生時代の絵も「ブレてないな〜」と思わせるものでした。


中学生ぐらいから海賊漫画のアイデアを溜めてた尾田栄一郎先生的な、「とにかくこれだけを描きたい」っていう狂気にも似た強い意志を感じますね。

で、その短期連載の「ビーストコンプレックス」がとにかく面白かったんで雑誌掲載時にネットで感想を検索しまくったんですけども、ダメな作品をナナメ読みしながら愛することが多いチャンピオン紳士(チャンピオン読者の愛称)たちも、「ビーストコンプレックス」は素直に絶賛してたんですよ。「なんでこんな作品がチャンピオンに」とか「これは近いうちにチャンピオン読者以外にも話題になるのでは」的な感想が多かった印象です。そしてその好評を受けた結果だと思うのですが、「BEASTARS」と改題して本格連載へ。短期連載時の設定を引き継ぎつつも、オムニバスではなく、ハイイロオオカミのレゴシを主人公にすえた物語としてスタートしました。

演劇部で裏方をやってるレゴシは大型肉食獣なのに気弱で繊細で、部活内の人間関係で色々あったり、その性格と戦闘力の差に悩んだり、ふとした瞬間に本能が出て草食動物を襲いそうになったりします。レゴシのほかにも、草食ながら学園の頂点(ちなみにこれがタイトルの「ビースターズ」という称号で呼ばれるポジション)に立とうとするシカや、ビッチ扱いされてほかのメスから嫌われまくってるウサギとか出てきます。思春期の少年少女を丁寧に描いた群像劇の中に、「動物の本能」という要素がうまいことブレンドされている漫画、と言えばなんとなく伝わりますでしょうか。「若い頃ってこういうことで悩むよね」という人間くさい“あるある”の中に、「動物が共存してる世界があったとしたら実際にこういう悩みがあるんだろうな」っていう“架空のあるあるっぽい出来事”が絡んでくるのが面白いです。

前述のビッチなウサギを例に出すと、平凡なドワーフ種のウサギのハルは、オスたちが「守ってあげたい」って勝手に寄ってくるタイプのメスなんですね。そのナチュラルなモテぶりのせいで、とある彼女持ちのオスから好かれてしまい、その彼女からは「私たちはウサギの中でも絶滅危惧種のハーレクイン種同士のカップルだったのに!あんたが遊びまくってること、学校中のオスに言ってやるわ!」ってキレられるという。ウサギ同士だけでこんなこと起きるんだから、色んな種類の肉食と草食が一緒に過ごす学校だとそりゃあ色々ありますよねー、みたいな作品です。

あとはとにかく絵がいいです。


↑にある画像、1話めの見開き扉なんですけど、それぞれの表情もいいので「いろんな性格の動物がいるんだろうな〜」ってわかるし、「みんな制服着るの大変そうだな〜」とか考え出すと止まらないんですよ。一枚絵だけで色々と想像が膨らみます。本編でも、例えばトイレのシーンでは背景に超巨大なのから小さいのまで、いろんなサイズの便器が描かれてるんですね。リスからゾウまで通う学校なんだからそりゃそうだよな、とかそういうのを考えるのが楽しいので何回でも読めます。絵の情報量からいろんな設定を想像せざるを得ない感じは「ドラゴンボール」とか「ワンピース」に近いかも。

BEASTARS」はネットに試し読みがあるので、1話を読んで気になる人はぜひ単行本を買ってみてください。「BEASTARS」の1巻に「ビーストコンプレックス」は収録されてませんが、週刊少年チャンピオン2016年13号〜16号に載ってます。チャンピオンは電子版があるのでバックナンバー買いやすいですよ。いつかこっちも単行本にまとまるといいな。

板垣巴留BEASTARS」第1話 試し読み
https://arc.akitashoten.co.jp/comics/beastars/1

最後に余談ですが、作者の板垣巴留先生について、ネット上だと「板垣恵介の娘」って断定されて書かれてる場合もあるんですよね。でもあくまで「掲載誌と名字が同じ」っていうことと、「ビーストコンプレックス」初回掲載の翌週に、板垣恵介先生がチャンピオンの目次コメントで「持って生まれたな。板垣巴留。」と異例の言及をしてたことから出た噂ではないかと思います。公式には否定も肯定もされてないはずですよ。

『仮面ライダーW』は大人が見ても面白かったよ、という話

仮面ライダーフォーゼ』からライダーを見始めて、過去ライダーをオーズ→ディケイド→電王と遡って見て、次は『W』を一気見したんですが、まー面白かった。今んとこライダーでは一番好きかもしれません。皆さんにも見て欲しいので、どこらへんが好きだったかを若干ネタバレありで書きます。みんなも見よう、仮面ライダー!(おれの特撮友達が少ないので)(あと大人が見てお金を落とすとグッズの種類が増えて楽しいので)

仮面ライダーWで特に良いのは、敵怪人に特殊能力を持ってるやつが多いところです。

人間が怪人に変身するための「ガイアメモリ」ってのがあってですね、「メモリの名前=能力」なんですよ。

分かりやすいやつで言えば、天候を操って攻撃する「ウェザー」や、ゴキブリ型怪人に変身する「コックローチ」みたいな。その辺はもう明らかに戦闘に使えそうな能力なんですけど、ときどき「ライアー」(相手にウソを信じこませる)とか「ジーン」(遺伝子操作)とかは名前を聞いただけだとあんまり強そうじゃないのに、持ち主達は創意工夫を凝らして戦闘や犯罪に使ってるんですよ。

中でも感心したのは「イエスタデイ」で、能力は「刻印を打ち込んだ相手を、昨日と全く同じ行動を取らせる」っていう全然意味が分からないやつなんですが、具体的に言うと「対象がプールに飛び込んだ場面を翌日にビルの屋上で再現して飛び降りさせる」とかそういう方法で人を殺そうとするんです。この特殊すぎる能力、なんか映画とかに元ネタあるんですかね?

他の特撮にも特殊能力系はいないわけでもないですが(最近だとゴーバスターズのケシゴムロイド(体が小さい&データ消去)とか)、ここまで能力バトルに特化してるのは珍しいのではないかと思いますので、ジョジョ等の頭脳系能力バトルが好きな方にはオススメです。戦闘型の「ビースト」を、単体だと弱いけど瞬間移動能力を持つ「ゾーン」がサポートしてコンビだと超強い、みたいなのもあったりして、すげえジョジョっぽいです。
それでもたまに、特撮特有の「新発売のおもちゃが劇中に出たら超強い補正がかかる」みたいなやつもあるんですけどね……。

しかもライダーの変身前が探偵なので、「依頼人周りの『誰が』『どんな能力のメモリを』持ってるか」っていうのを推理するのが話の軸になってくるんですよ。メモリには能力の頭文字のアルファベットが書いてあるんで、例えば「D」のメモリでも、「死人を蘇らせる『デス』かと思いきや、偽物を作るだけの『ダミー』」みたいな引っ掛けもあったりとかします。

ドラマ部分に関しては、「背伸びした子供たちの間でメモリが出まわって問題になる」とか「娘が児童劇団のお芝居で主役になれなかったので、嫉妬に狂った母親が『オールド』のメモリを持つ怪人に頼んで主役の子を老婆にする」みたいな、街のゲスい犯罪に特撮的な要素がうまいこと絡んでるのも好きです。

あとは「テキ屋のおっさんが友達をかばって10年服役して、出所してみたら好きだった女は元子分(現在建設会社社長)の妻になってた」みたいなシブすぎる話とか、長澤奈央さんがただひたすらエロい回とか、あんまり子供向けじゃない回もちょいちょいあります。




これ、日曜の朝に流したらダメじゃないですか?

あとこれ意外と個人的には大事なことだなーと気付かされたんですが、Wは単純にライダーのデザインがシンプルでかっこいいです。ディケイド(平成ライダー10周年)のあとなので原点に戻るってことらしいですが。フォーゼとか電王は、話は面白いけど最後まで見た目には馴染めなかったので、好みのライダーがずっと出てるっていうのは気持ちよかったです。

まあ、もうすぐ『仮面ライダーウイザード』始まるので、みんなと話を合わせるにはそっちを見たほうがいいと思いますが、自分みたいに最近仮面ライダーを見始めて、ちょっと昔のも見ようかな〜っていう人なんかには『W』がおすすめですよ。

メタからベタへ、そこでやめときゃいいのにまたメタへ 『非公認戦隊アキバレンジャー』

http://www.akibaranger.jp/
非公認戦隊アキバレンジャー』が終わってしまったので感想を書きます。作品の性質上、「ココらへんが面白かったよ」っていうとこを書くとどうしてもネタバレになるのでそこはご勘弁を。あとバンダイチャンネルで有料配信されてる(1話と最新話は無料)ので興味を持った人は見てみてください。

始まる前は「秋葉原が舞台」「戦隊オタとかコスプレイヤーが変身する」「作中アイテム『ズキューン葵』のフィギュアが変身アイテム」「敵組織の名は『ステマ乙』」「痛車がロボに変形」などの情報から、「おいおい戦隊パロディなんてプロにも同人にもやりつくされてるから難しいんじゃねーの?わざわざ東映さん自らやる必要ある?」と思いつつ、東映さんがやるなら一応見てみるか……日南響子かわいいしな……みたいな感じで見始めました。

1話目を実際に見て、小ネタもさることながら、クライマックスシーンの

敵幹部「(アキバレンジャーを追い詰めた後、怪人に)あとは任せたわ」
レッド「フッフッフ……言ってしまったな、そのセリフを!スーパー戦隊における敵幹部の『あとは任せた』は!悪者どもの超鉄板敗北フラグだ!」
ブルー「さっきと戦力は変わらないのに負ける気がしない!」
イエロー「スペックは二の次にゃ!」
レッド「そう!スペックだけで決まる勝ち負けなんて、スーパー戦隊にはあり得ない!」

というやりとりでハートをわしづかみにされました。メタギャグなのに無駄に熱い!確かに特撮って、スペックがどうのとか作戦がどうのとかよりも「人々が平和を願う気持ちが生んだ奇跡」的なやつで大逆転勝利したりする(特に映画だと顕著)ので、「スペックだけで勝ち負けは決まらない」というセリフにはその辺も含まれてるんじゃないでしょうか。

その他のパロディ部分に関しても、「大人が全力で馬鹿をやる」という素晴らしさに感動します。確かにパロディのアイデア自体は同人誌等とかぶる部分ももしかしたらあるのかもしれないけど、「本物の戦隊の映像を使う」とか「敵幹部が穂花」とか「1/1サイズのハイクオリティ変身アイテム(定価12600円)を実際に売る」とかはパロディではできないわけですよ。

それに番組のキャッチフレーズに「良い子は見ちゃダメ!」というのがありますが、これは単にマニアックなネタとかちょいエロシーンがあるから見ちゃダメ!という意味ではないそうで、番組公式ページには

見ちゃダメ、という最大の理由は、本作品が「スーパー戦隊シリーズ」に関するメタフィクションであること。なかでも「スーパー戦隊シリーズはテレビで放送されるフィクション」といったことに言及してしまう部分。これは「過去の戦隊は歴史の中に実在したヒーローである」の視点で展開したゴーカイジャーなどとは真っ向から反するものであり。……まあそんな話を良い子に見られると困るという訳ですね。

とあります。確かに良い子はスーパー戦隊を実在のものとして信じて見て欲しい!それなのに公式でこんなことやるのは東映としてもリスクがあるはずで、実際、アキバレンジャーフィギュア発売時には、普通に本屋に置いてある特撮雑誌・フィギュア誌の表紙になってたので、いつ通りすがりのチビッ子達が「お父さんアレなーに?」って興味を抱かないか個人的に心配してました。
「大人が全力で馬鹿をやる」と一言でいえば陳腐になってしまいますが、こんなふざけた内容でも地上波番組なわけだし、番組の企画やおもちゃの販売を実現させるために、たくさんの大人たちがお金と時間かけてるんだなーとか想像すると泣けます。大人が全力で馬鹿やろうとするとなかなか難しいですよね……。

そんなわけで、1話で「東映が本気でパロディやるとこうなるんだな」っていうことに感動し、2話で「え、公認戦隊のキャラも出るの?」とビビり、5話のイエロー母上京回で泣いて「あれ?これもうパロディとか関係なく普通に好きだわ」とハマっていきました。

そして後半に入った7話で、これまで「アキバレンジャーは妄想世界(脳内)で戦ってるだけ」という設定が崩れ、敵幹部マルシーナが現実に進出してきたあたりから話は一気にシリアスに。博士親子の因縁など、急に話の縦軸がしっかりしてきます。
9話でいよいよ現実と妄想の壁が壊れ、秋葉原の住民が「ステマ乙」の怪人襲われて阿鼻叫喚という地獄絵図に!(ただし被害は「熱々の餅チーズ明太もんじゃを全身に貼り付けられる」という、熱いのは熱いけど死なない程度のやつ)
それなのに現実世界だからアキバレンジャーは変身できない!ヒロインが襲われるけど妄想じゃないから全く歯が立たずにピンチ!やっぱり妄想と現実の戦いは違う……という展開からのレッド覚醒!&主題歌BGM!

「俺は、妄想と現実の壁を壊すほどの痛い男!現実だろうがどこだろうが、変身して戦ってやるんだ!」

という、ダサかっこいいセリフからのリアル変身!という熱いシーンが最高すぎました。こういう「メタを突き詰めてベタになる」みたいな展開は大好き!

さらにそこから、「敵組織の内紛→普通にかっこいい新幹部登場」「アキバレンジャーが変身するごとに博士の身体を蝕むのであと数回変身すると博士が死ぬ設定追加」「痛いレッドがペンタゴンにスカウトされて、爽やかな新レッド登場」など、10〜11話はもうなんか普通に面白い話になってしまいます。特に11話なんか、わざわざオープニングナレーションをシンケンジャーの宮田浩徳さんに変えたり、オープニング曲も2番にしたり、戦闘時の名乗りも敵怪人デザインをこれまでのふざけたやつから正統派になってたりしました。「日曜の朝やれよ」としか言いようのない完全な戦隊物。
え、1クールしかないのにここから第2部!?そしてまさか、このシリアスなのが本編!?

しかし!

11話の途中でレッドが「もしかしてこの世界は『アキバレンジャー』という番組で、俺達はその登場人物なのでは?」「新キャラ登場はただのテコ入れなのでは?」と気づいてしまう超展開。さらには、それを信じない他のメンバーのために、画面下部に流れる「番組から素敵なプレゼントがあるぞ!詳しくはアキバレンジャー番組ホームページで!」というテロップを手づかみして見せつけ信じさせるという超荒業。めちゃくちゃすぎる!

ギャグだった前半から一気に終盤でまともになって、そのままかっこ良く終わったらそれはそれで伝説になったはずなんですよ。こっちは勝手に「この現実と妄想の壁が破れた後の世界のシリアスさを描くためにこれまでふざけてたのかー!前フリ長すぎてシビれる!」「この良い意味での裏切られ方、まどか☆マギカを見た時以来!」とか思ってたのに!驚きを返せ!

そんなこんなで、総集編を除くと最終話となる第12話では「番組外現実の黒幕は原作者・八手三郎だ!」「八手三郎はこの番組を打ち切りにしようとしている!登場人物がその存在に気づいたら話を思い通りに進められないからな!」ということで、「番組を終わらせようとする力」とか「最終回フラグ」という概念的なものに抗い、最後には「オワリ」という文字のCGと戦って終わるという、悪ふざけそのもので終わってしまいましたとさ。

でも「メタからベタへ」っていう展開そのものが割といろんなとこで使われすぎてベタにはなっている気もするので、そこからさらに一捻り加えて「メタ→ベタ→メタ」で落として「最後までくだらねーw」って思わせてくれたのはこの番組らしかった気がします。いつもふざけてる人がかっこつけたあとにテレ隠しでまたふざける、みたいな。
こんなことやったら色んな意味で2期は難しそうな気はするんですけど、超面白かったのでぜひとも続編に期待したいです!

非公認戦隊アキバレンジャー 1 [DVD]

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余談ですが、「メタからベタに行って、そこでやめときゃいいのに最後にオチをつける」といえば、自分が見た中で一番感動したプロレス興行である「マッスルハウス4」と同じ構成だな、と思いました。

生き様なんて5番目だ! 卯月妙子『人間仮免中』

卯月妙子さんの『人間仮免中』を読みました。

人間仮免中」では、波乱に満ちた人生を送る卯月の近況が見られる。統合失調症の悪化など、複雑な事情を抱え長らく筆を置いていた卯月。物語は25歳年上の男性と恋に落ちたことから始まり、様々な苦難を乗り越えながら2人が愛を育んでいく様子を描いている。

卯月妙子さんのことは「AVでうんこ食ったりしてた人」程度の認識でよく知らなかったんですが、

このあたり読んで皆さんの熱量が異常なのが気になって読んでみたんですけど、とにかく疲れました。「こういう人生もあるのか」系のコミックエッセイだと吾妻ひでお先生の「失踪日記」とかあると思うんですけど、あれ読んだ時の何十倍もぐったり。

旦那の借金が原因でAVに出たり、その後旦那が投身自殺を図って1年半植物人間になったあと亡くなったりっていう壮絶な過去を持ってる作者と、それでも好きになってくれた25歳年上の恋人・ボビー。統合失調症の卯月さんと癇癪持ちだけどいい男ボビーの、「見ててハラハラさせるけどなんだかんだ言ってラブラブな2人の日常」が描かれてて、「いろいろあったけど生きてて良かったね」と思って読んでたら、ボビーが保証人になってた会社が潰れて6000万円失うことに。

そこで「これからはいかに安く旨く飲むか考えようぜ!」「デートは公園で健康的に!」みたいな話をし始めたので、「金はないけど逆にこっちのほうが幸せな日常」みたいな話になるのかと思ったら、ヨガと占いにハマって根拠のない万能感を得だした卯月さんが自分で勝手に薬を減らして、いきなり「これからおいらはミラクルを起こすんだ!」「バンジーで運試しだ!」って感じで歩道橋からダイブ。奇跡的に身体は無傷だったけど、顔面から着地したので頭蓋骨ごとズレて片目が片目は失明したうえに変な位置にズレる大怪我。

このあたりまではまだ(内容は重いけど)テンポ良く読めたんですが、そのケガでの入院生活のあたりはきつかったです。統合失調症の幻聴とか幻覚を、よくこんな覚えてるなっていうぐらい書いてるくだりがしばらく続くのがとにかくいろんな意味で辛くて……。
具体的に言うと、「笑われてる幻聴」とかはまだ軽いほうで、看護婦さんたちが「顔面投的」(身体をベッドに拘束して顔面に鉄球をぶつけて頭蓋骨を砕く安楽死のやり方)の話をしてて(もちろん幻覚)、それに卯月さんは怯えてるんだけど、コマの外に「注・顔面投的なんてものはこの世に存在しません」とか書いてたりするんですよ。あと自分の遺体をスカトロマニアのおじいさんの遺体と一緒にすり潰されて、それをボビーが食べる幻覚とか。こんなもん、ちょっとずつ休憩入れないとしか読めない!

それでも最終的には「親・息子・恋人・友人・病院の人たち、周りの人に支えられて生きてる!」っていう結論になって、ベタといえばこれ以上ベタな話はないんですけど、それまでの過程が壮絶な分、本の帯にもある「生きてるだけで最高だ!」の説得力がとんでもないなと思いました。

個人的には、卯月さんが薬の副作用でうんこ漏らしたとこでボビーが言った

お漏らしなんて気にすんな!
いいか?
1に、この世にあること!
2に、この世に快くあること!
生き様なんて5番目だ!!

というセリフがとても印象的でした。
自分の周囲にいる能力の高い人に嫉妬したり、ネットとかでよく見る意識の高い人達を見て「おれ才能もないし、別に出世欲とかねえなあ……」ってヘコんだりすることも多かったんですけど、とりあえず生きるぞー!

40歳独身オタクのキモ楽しい日常系4コマ『おたくら』、まさかの書籍化!!

古参テキストサイト一流ホームページ』でおなじみ、ゴトウさんが「ケータイ週アス」で描いてた4コマが書籍化されました。





この特設サイトから20個ほど試し読みできます。

さてこの本、帯であの桜玉吉先生(50歳)から

「行動」して「消費」する 俺の知ってるオタクだぁー!!

というコメントをもらっているようです。
そう、今はもう普通の人がちょっと漫画やアニメ好きなぐらいでオタクって気軽に自分で言えちゃう時代ですけども、ゴトウさんはまだオタクをカミングアウトするのはありえない時代から生き残ってるオタクです。僕なんかは「非オタからはオタクと思われ、マジオタからはヌルく思われる」ぐらいの中途半端な存在なんですけど、そういう半端オタがこの漫画読むと「本物は違う」って思わされることが多いです。
週アスの記事とかに一応「オタクの日常系あるある4コマ」って書いてあるけど、ほぼ「ないない」ですよ。「オタクはだいたい限定版を買うので通常版持ってると逆に珍しがられる」とかはまだ理解できるけど、「万が一ということもあるので、声優と同じ名前のスパムは一応開いておく」とかが「あるある」なわけないだろ!

あと自分たちのやっている『オフ喜利』という大喜利イベントにゴトウさんも出てもらってるんですが、「大会への意気込みを語る」的なインタビュー映像を撮るときにも「一応こういうの用意してきたよ」ってちゃんとアニメTシャツ着てくるし、「大喜利への意気込みを語るんだけど、途中からアニメの感想にすりかわってる感じでいいのかな?」とか提案してくるし、しかもそのアニメ話が全然理解できないぐらいに濃くて早口なんですよ。会場で映像を流すと笑いも起きるけど女性客からはちょっと悲鳴も聞こえるっていう、「マジで気持ち悪い」と「可愛げがあるので笑える」のギリギリ中間ぐらいのキャラクターなんです。
真性のオタクって自分が見えなくなってるイメージなのに、なんでそんなにキモさを客観的に見れたうえで「普通の人から見たらこういうのが面白いはず」っていうサービス精神が感じられるのかが不思議でなりません。そのバランス感覚の良さが漫画にも表れていると思います。

しかもゴトウさんは落語好きなせいか、漫画でも4コマ(or8コマ)でちゃんと起承転結をつけてるので、よくある絵が可愛いだけのヌルいオチなし日常4コマの何百倍もおもしろいです。内容が『おたくら』ぐらいちゃんとしてて絵が美少女だったらめちゃくちゃ売れると思うんですが、『おたくら』は40歳キモオタが主人公っていうのが重要なのでそこら辺が難しい所ですね……。

まあ色々書きましたけど、上記の特設サイトから試し読みするのが一番魅力(とキモさ)が伝わりやすいと思うので、お時間ある方はぜひ見てみてください。