さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

はてなダイアラージャンプ漫画百選「キン肉マン」

さて唐突に始まりました「はてなダイアラージャンプ漫画百選」、記念すべき1発目はゆでたまご先生の「キン肉マン」であります。
普段はてなではキン肉マンII世週刊プレイボーイで連載中!)については散々語ってるのですが、ここでは改めて初代について語ります。俺とキン肉マン

連載開始が79年、僕が78年生まれなんで導入はアニメ(84年〜)からだったとは思うんだけど、僕がキン肉マンにハマった理由なんざ、僕が子供だったからとしか言い様がないんです。
まず、初めて出会う燃える要素が多すぎた。
国を代表した個性豊かなキャラ!オリジナリティーに溢れ、真似したくなる必殺技!アンド合体技!強さを数字で表す!インフレ気味にどんどん強い敵が登場!過去に倒したライバルが仲間になる!死んだ仲間が生きかえる!トーナメント!5VS5の団体戦!コレクター欲(キン消し)!読者参加(超人募集)!エトセトラ、エトセトラ。
お習字の時間に「永」という漢字には全ての要素(はね・止め・はらい等)が入っていると習ったものですが、「肉」の字にも色々詰まっているわけです。言いすぎましたごめんなさい。まあ僕は世代的にたまたまキン肉マンに当たっただけで、多くの要素は例えば「リングにかけろ」あたりでやられてるものですが、恋なんてタイミングなのです。でもタイミングつったって「たまたま」じゃなくて「奇跡」。そう信じたい。
 
で、本題。
ゆで先生のすごい所は、面白さの為には思いついたものをなんでもブチ込めるところです。
例えば映画などからのコンセプト・エピソードの引用。
一番象徴的なのは悪魔超人編での、ちっちゃくなってウォーズマンの体内に!しかも体内には5重のリングが!とかそういうアレです。小学生が元ネタを知らないと思いやがって!まあ知らなかったけど。そんで最上階についたら「朝は4本足、昼は2本足〜答えは超人だー!」って。なんて小粋ななぞなぞを考える人だ!って思ってました、昔は。いや、パクリじゃん!とか言ってるわけではなくて、表現とは例えることだし、アイデアとは組み合わせのことだと思ってるので全然オッケーです。キル・ビルとか氣志團だって引用の寄せ集め的な部分はあると思うんだけど、そう考えるとキン肉マンは時代を20年先取りしてる。元ネタ辞典とかあってもいいと思う。ジェロニモの心臓マッサージは必殺仕事人、とか。
あるいは小学生が食いつきそうなウンチク・マメ知識。
「鳥の帰巣本能が〜」とか「ネコジャラシという植物は〜」とか「昔は牛裂きの刑というのがあって〜」とかの、「おもしろ百科辞典」的なタイトルの子供向けムックに乗ってそうな知識も戦いにどんどん引用されてます。その中に混じってホワイトホールとか惑星バルカンとかピラミッドパワーとか混ぜられるとそれすら信じる。そうやって小学生はちょっと頭が良くなった気になり、しかもゆで先生へのリスペクトも生まれます。唐突に「特製の浮遊装置が組みこまれてるから」という理由でリングが空中に浮かんだりしても特にびっくりしないのです。小学生は、理屈というか説明があるなら納得してしまうのです。「あ、これでリング浮くんだ!」ていうのと「へえ〜、夜光虫って虫がいるんだ!」ってのは同レベルなんだと思う。「世の中には知らないことがたくさんあるなあ」っていう。これは大人になるまで気づかない。しょうがない。さらに言えば「8を横にしたら無限大」とか、説明されても分かった気にすらなれない理論まで持ち出してくることもあるからね。
ちょっと話がズレるけど、「小学生は理屈に弱い」ということが一番わかりやすいのがザ・ニンジャの技で、BSマンガ夜話でもちょっと言われてたんだけど、ニンジャが胴体から首と手足を切り離されても動いてることへの説明が「胴体の中に本物の手足をカメみたいに隠して、偽者の手足は見えない糸をテレパシーで操って動かしてた」って。そこはまあ、まだギリギリ「忍者ってすげえ!」「修行すればできるかも!」ていうレベルなんですよ。小学生は“気”とか忍者は信じるし。そうやって屁理屈、そう、文字通り屁みたいな理屈を見せられたあとで、ニンジャが何するかっていうと、「転所自在の術―――水の絵の描かれたシーツをリングに広げると、そこが本物の池に早変わり!」って。それはもう忍術じゃなくて魔法だろ!そっちの説明は無しかよ!というレベルなんだけど、さっき「忍術は理屈があるものですよ」って説明されたあとだから信じるしかないんです。
 
で、ゆで先生はそういう「自分が面白いと思ったもの」「漫画に応用できそうなもの」を取り合えずどんどん思いつきでブチ込んでいくんですけど、先生のすごい所はそこに歯止めが利かないところです。“ゆでたまご”は2人組のユニットなので、普通ならどっちかがストッパーになるんじゃないかと思うんだけど、2人ともいい意味で小学生なのが奇跡的なのだと思う。だって小学校からの同級生で、大人になってからも必殺技を考える時はお互い技のかけあいっこしながら考えてるらしいですよ。ジョジョ4部の虹村億泰調に言うならば、「『ハーモニー』っつーんですかあ、『調和』っつーんですかあ〜っ。たとえるならサイモンとガーファンクルのデュエット!ウッチャンに対するナンチャン!嶋田隆司の原作に対する中井義則作画の『キン肉マン」』!…つうーっ感じっスよお〜〜っ」だ。
習慣アムヘンのアムヘンさんは、新鮮!牛丼野郎!の中でこう書いている。

ゆで先生の凄い所は、「かっこよい見せ場を作るためには全てを捨てられる」ところだと思う。例えば練り上げられた世界観や大学ノート数10冊にも及ぶ設定資料、そんなものは本当は作品が出来た後に残っていれば良いのであって、ゆでたまごの作品を読んでいると、作者が自ら作った世界を必死に守りながら漫画を描くことは、本末転倒のように思えてくる。裏側はボロボロのハリボテでも観客の側には最高に面白いものを!それこそがエンターティナーの本分であり、ゆでたまごの創作活動の根底にはそれがあると確信している。

あと先ほどもチラっと話に出したBSマンガ夜話の中で、夏目房之介は「この漫画って結局、子供が寝た時に見る夢なんだよね。夢って設定ムチャクチャだけど楽しいじゃない?」と、うろ覚えだけどそんなようなことを言っていた。
そう、面白さの為に色々ブチ込むのはいいんだけど、調子に乗るとなんか壊れてくるのである。
それがストーリーに関係するぐらいの重要な設定でも−−−
例えば王位争奪編。主人公キン肉マンはラスボスであるフェニックスに「俺は天才だったけど貧乏で、お前は王子なだけで幼稚園も特待生だったぜ」と恨まれるんだけど、そもそもキン肉マンの生い立ちは生まれた時にブタと間違えられて捨てられたとこから始まってる。
あとこれはキン肉マン2世にもまたがるんだけど、2世ではウォーズマンが師匠・ロビンマスクの開発した技・パロスペシャルを、ロビンの息子であるケビンに伝授するシーンがあるんだけども、そもそも初代ではロビンマスクウォーズマンをスカウトした理由の一つにパロスペシャル、つまりあれはウォーズのオリジナルという設定なのです。まあ、もっと言えばあの技はジャッキー・パロという実在するレスラーの技なのでパロスペシャルなのだけど。
こんな具合である。
しかし、自分の脳内の設定を無視しても「微笑ましい」だけですまされる。ゆで先生のやることだし・・・。みたいな。だけど、暴走したゆで先生は物理学すら無視するのである。
例えば、「ゆで物理学」のひとつに「重いものは早く落ちる」というのがある。ロビンマスクロビンスペシャルという技は相手を空中に放り投げて自分も一緒に飛んで行き、ロビンは“鎧の重さの分だけ”相手より早く落ちて下に潜り込むことで成立する技なのである。しかも相手(ネプチューンマン)にそれを1回で見破られ、鎧を剥ぎ取られて「こうすれば私の方が早く下に落ちる」と自分がその技を食らうハメに。
ゆで物理学その2。「地球を逆回転させたら時間も戻る」。ヘル・ミッショネルズは磁力をあやつって地球を回転させるだけでも相当すごいのに、なんと逆に回して、しかもそれで時間が戻るってお前。しかもなんでそんなことしたのかっていうと「5分で覆面を剥ぐ」っていう予告が守れなかっただけの理由だからね。結果的に「地球すら操るのか!」ていうアピールにはなったけど。あ、これの元はスーパーマンだな。
書いてて絶句するけど、こんな具合である。
 
ウンチク・マメ知識の辺りで「小学生はちょっと頭が良くなった気になり」と書いたけれど、自分に知識を色々くれた実はゆで先生がツッコミどころ満載ってのも、先生が愛される理由ではないかと思う。ツッコミていうか揚げ足取りって、自分が頭良くなった気分になれるし。僕は小学生の頃に「ロビンスペシャルおかしいよ!」って友達に説明して「すげー!」って言われた記憶があるのだけど、それは確実にこのサイトの原点の一部であると言えよう。
 
そういえばBSマンガ夜話(またか)のサイトを読んでいたら、読者の意見で

この漫画には、設定の雑さ、理不尽さをどうでもいいものにしてしまう程のパワーがあります。キャラクターをまた募集しているのも泣ける!!この作者と読者との信頼関係が、最大の「友情パワー」かも知れませんね!

というのがあって、こりゃ上手いこと言うなーと思ったのだけど、僕はこの信頼関係は「ダメなヤクザみたいな男(ゆで先生)とそれに惚れた女(読者)」みたいな関係にも似ていると思う。女はいいかげん愛想もつきかけてるんだけど、たまーにすげえ格好良いとこ見せてくれるんだ、キンちゃんって。それ知ってるから悪く言えないの。キン肉マンを嘲笑の対象としてしか見てない人も多くいるから、そういう連中相手に「アンタにキンちゃんの何がわかるの!」とも言いたいんだけど、でも格好良い部分はあんまり見せてくれないからどうせ信じてくれないし、強く言えない…それでもメロメロなのである。惚れた女の弱みである。クーッ。そして実際「じゃあそこまで言うならちゃんと1回読んでみるよ」と理解を示してくれる人もいたんだけど、「序盤のギャグ編が辛いから読むのやめちゃった」と何回か言われたこともある。ごめん、そこは読み飛ばしていいや、超人オリンピックから読んで!キンちゃんったら、私の面目つぶさないで!という感じである。もう、しょうがないんだから。
 

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次は、この企画の提案者である麻草さん(id:screammachine)にまわします。ごめん、すげー遅れました。
↑麻草さんが忙しいとのことで、予定を変更して、id:SHELTERさん、お願いします。