さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

昨日の浅草話の続きです。

腹いっぱいになったあと、まだ時間が早かったので浅草をアテもなくうろつく。道で人が寝ているようなディープな通りを歩いていると、猫がたくさんいたのでかまって遊ぶ。しかも人に慣れているようで、全然逃げないので可愛い。
大の大人が4人で猫と遊んでいると、いきなり「お兄さん達、店の中にも猫いるよ」と飲み屋のおばちゃんに声をかけられる。そんな声のかけかたって、と思ったけどヒマなので入ってみることにした。
店は質素というか民家そのままを無理やり飲み屋にした感じで、テーブルの下に無造作に名前も知らない歌手のカセットテープ(ラベルが手書き)が置いてあったり、テレビの前にはなぜかパックに入ったままの電池が置きっぱなしだったので「テレビのリモコン使い放題だよ!」とか言って半ば無理矢理にこの状況を楽しむことに。

店内に入ると、猫がテーブルやカウンターの上に鎮座しており、まあ気になる人もいるんだろうけど、猫好きの人ならきっとパラダイスだと思う。といっても猫は目ヤニがついていたり、年を取り過ぎて歯がなかったり、道端にいる普通の薄汚れた猫達で、この猫ちゃん達を「遊んで行かない?」と客引きに使うのはどうなんだ、とちょっと思った。お姉ちゃんのいる店に例えると、全く身なりに気を使ってない娘やおばあちゃんが出てくるようなものというか。まあ別料金を取られてるわけじゃないからいいんだけど。ちゃんとした猫を使えば「猫パブ」とかなんとか言ってゼニになるのではないか、いや、この店のようにあえて普通の猫のほうがいいのか?等とどうでも良い事を考えながら飲んだ。4匹の中では年老いた黒猫がやたら頭を摺り寄せて来てとても可愛く感じ、人間でも猫でも、自分に懐いて来るのが一番可愛いものだよね…と思ったけど、その黒猫は誰が相手でもそんな態度で、単に人間大好きっていうだけらしいのでちょっと寂しかったよ。

飲みながら適当にテレビのチャンネルを変えていると(変え放題だから)、ケーブルでプロレスをやっていたのでちょっと見る。おばちゃんが「私らは力道山の時代でねぇ」と話しかけてきたので「ブラッシーとかシャープ兄弟の時代ですよね」と対応して「そうそうそう!」と喜ばれ、それを見ていた他の連中に笑われた。
話はK-1に飛び、「曙は円形脱毛症になったんだって?」と言われたので、曙の知名度に改めてビックリする。「K-1レスリング(お年よりはプロレスをこう呼ぶ)は何が違うの?」と聞いてくるような人にも届くとは。

僕ら4人の他には客もおらず、おばちゃん達(うちの1人はおもしろいパーマ+原色のシャツで、おばちゃんの中のおばちゃんといった感じのビジュアル)はヒマでヒマでしょうがないといった様子で、しかもうちらのように比較的若い客が珍しかったのもあるんだろう、やたら絡んできた。会話の内容は「お兄さんは生まれはどこなの?」「山口です」「山口っていったら長州じゃない!薩長同盟の!」「…はあ(苦笑)」といった噛み合わないものがほとんどだったので困った。こういう人を相手に話を広げられるようになりたい。放って置かれるのが好きな客もいるだろうに、店の雰囲気もあいまって、親戚の家に来たみたいな錯覚を覚えて全く落ちつかず。でも東京砂漠にいるとなかなか出来ない経験ではあると思う。僕らは「お兄さんたち、年齢も仕事も住んでる場所もバラバラで、どういう集まりなの?」と聞かれても結局にごしてしまったようなコミュニケーション能力が低い人間なので、また浅草に行く事があってもたぶん寄らないだろうな…とは思っても、店の前を通った時に見つかったらきっとまた強引に連れこまれるような、そんな気もした。