さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

皇国の守護者(原作:佐藤大輔/漫画:伊藤悠)

借りて読んだ漫画がノーマークだったけどおもしろかったー。

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

原作は小説。ウルトラジャンプ連載中。4巻まで。以下続刊。

サーベルタイガーを連れた部隊が主役の戦争モノ、ってことだけ何となく知ってたので、虎にスポットを当てたというか、その部隊がガンダム的な扱いで戦争を逆転させたりするのかな?とか、あるいは敵国が他の動物を連れてたりするバトルものなのかな?とか思ってたらぜんぜん違った。もっとリアル寄りな架空戦記だった。リアルつっても、サーベルタイガーの他に竜とか超能力者が戦争にからんでくるけど、それはあくまでスパイス程度。ロボットこそ出ないけど、ガンダム好きな人は好きだと思う。

世界観としては、18世紀末ぐらいの日本っぽい国『皇国』とドイツとかロシアっぽい『帝国』の戦いがメインで、拳銃はあるけど戦車はない、ぐらいの科学力での戦争なんだけど、そこにさっき言ったようなサーベルタイガーとか超能力者が混じってるのが新鮮。戦争に超能力者が混じってるっていうとすげえ便利な気がするけど、通信と索敵ぐらいしか出来ないし、使い続けると術者は額に埋め込まれた金属板の色が鈍って死ぬっていうのが怖すぎる。ちょっとした兵器扱いかよ。
あとサーベルタイガーは強くてかっこいいけど、戦ってない時は可愛いのが良いです。さすがネコ科だぜ…という顔を時々する。

主人公の新城中尉は実力者だし部下からも慕われてるんだけど、色々あって出世できてないのも良い。ファンタジー要素とか戦争ものであることよりも、むしろ無能な上司の下で働かないといけない新城の苦悩とか、それを取り巻く群像劇のほうがこの漫画のメインかも。戦争的には圧倒的に人数・物量で負けてるうえに、上層部からの支援もロクに受けられないという危機的状況を乗り切らなきゃいけないんですよ。燃える。

主人公側の戦況がどれぐらい悪いかというと、スパロボとかのSLGやってると、敵が多すぎるせいで「これはイベントで援軍が来るんだな、そうじゃないとこんなのクリアできるわけないし…」って思っちゃうステージってあるじゃないですか。万人に伝わらない例えで申し訳ないけど。
そういう感じなのかなーって思って「ここから何かすごい新キャラが来るとか天災があるとかして大逆転するのだろう…」と息を飲んで手に汗にぎって読み続けてるのに何もないでやんの。ただひたすら絶望的な戦いを続けている。ある意味すごい。しかも今のとこ舞台が蝦夷っぽい北国なので絵的にもずっと吹雪なのが心細さを引き立ててるし。

主人公の機転によってもたらされるものが、戦況好転とかじゃなくてせいぜい「ちょっと寿命が延びた」ぐらいなんですよ。大逆転とかのカタルシスという大きな「エサ」なしで、息が詰まったまま読まなきゃいけない。その開放感の無さが逆に気持ちいいのでドMの人におすすめです。

かといって読むのが辛いわけじゃないのは、絵の迫力とセリフのカッコよさのおかげ。

このムービーとか
http://annex.s-manga.net/koukoku/

この名台詞集(原作版含む)
http://nekobako.sh4.jp/kikaku/meigen/051.html

を見れば雰囲気はこの作品の熱さは伝わるかと。サーベルタイガーかっこいい。

あと、台詞集を読んでたらこの漫画の根底にある、「戦争でいかに綺麗ごとが通用しないか」みたいなのも見えてくると思います。

例えばこれとか。

(「汚い」 )
(「そこまでして戦わねばならんのですか」 )
「ならば、ありとあらゆる道徳を守って勇敢に戦うとでも?半日後には、みんな揃って討死にだ。そんな運命、少なくとも僕は御免こうむる。死して無能な護国の鬼となるより、生きて姑息な弱兵と誹(そし)られたほうが好みだ。どのみち地獄に落ちるにしても、せめてものこと、納得だけはしていたい」

これはどういう場面かっていうと、敵が追いかけてくる途中に自国の村があるからって、その村の家やら畑やらを焼いて住民追い出して、井戸に毒を流すんですよ。敵がその村で休めないように。もちろん住民には敵が襲ってきたように見せかけてるし。まさに外道!さっきも言ったように、蝦夷っぽいとこなので何年もかけて人が住めるようになったような村なんですけど、そんなんお構いなし。「だってそうしないとみんな死ぬんだぜ?」って言われたらまあ納得するしかないんですけど。この綺麗ごとの通用しなさがたまらん。

主人公も自分のそういう行動に対して自己嫌悪しまくるんだけど、かといって悩みっぱなしではなく、残酷すぎる現実に対して(時には恐怖に震えながらも)「狂気」と「思索」で立ち向かうのが見所。「英雄とかならなくていいッス、悪者扱いされてもいいッス、とにかく自分は生きてたいッス」という信念のもと、ただでさえ無機質な顔(主人公にあるまじき三白眼)がどんどん悪くなっていくし。

愛国心とか使命感とかがある連中がポロポロと死んでいくのに、臆病で冷酷でリアリストな主人公は生き残るっていうのが「悲しいけどこれって戦争なのよね」としか言いようがない。

皇国の守護者 (2) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (2) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (3) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (3) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (4) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (4) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)