さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

覚悟のススメマニアックス・山口貴由2万字インタビュー

あーそうだ、『悟空道』について語るならこれも載せておかないと。

「季刊コミッカーズ」の96年12月号、「覚悟のススメマニアックス」。
巻頭カラー5ページで篠山紀信による山口先生のグラビアと、2万字インタビューが載っている奇跡の雑誌です。

時期的には「覚悟のススメ」が終わってしばらくして、アニメとドラマCDの仕事が終わった頃。そのインタビューの中で次の連載(=悟空道)にあたっての意気込みについて触れています。

――次の連載までしばらくお休みということで。
「半年ぐらいですけど」
―――充電ですか?
「稽古です」
―――え、お稽古って?
「街にでて自分の足でネタを探さなくちゃ。それに体重も5キロ増やして。少年マンガを描くのなら、強い人にならなきゃいけないと思う。肉体的に」
―――じゃあ拳法ならうとか?
「そんなのがいいかなと思って」

「漫画の新連載を始めるので体重を5キロ増やす」という行為のすごさよ。
もちろん引きこもる為に太るのではなく、鍛えて筋肉を大きくするという意味でしょう。
「漫画を描くって何だろう」という根源的な疑問すら浮かんでくる。
そりゃあインタビュアーも「え、お稽古って?」って聞きたくなるだろうさ。


その他にも、この雑誌のグラビア撮影や『覚悟のススメ』についてインタビューに答え、名言を連発しているのでついでに抜粋して載せておきます。

(グラビア撮影について聞かれ)
「来る前はホントに嫌だったけど、ドラマCDのアフレコに立ち合ったとき、堀江美都子さんが〈調教罪子〉をやってるシーンを見て…。大変じゃないですか、裸に虫がまとわりついてる役なんて。それをやらせた人間だからさ、今、自分にも因果がキマってるんだと思って」

(ふだん表に出る仕事じゃないですが?)
「ほんとは出ることも考えていかないとね…。三島由紀夫さんが言ってたんだけど、政治家でも裸で選挙ポスター作ったらどんな考えか分かるっていう。民衆のことを考えているなら、そんなおなか出ないだろうと。だからマンガ家も、汗が素晴らしいっていうんだったらヘンな体じゃダメなんだよね。だから、これからは…。俺なんて鳥ガラみたいだもんね」(当時、先生は180センチ55キロ)

これすごいなあ。「漫画家に」「グラビア撮影について聞いたら」「三島由紀夫の話をされた」って、要素だけ抜いたらシュールなのに会話が成立している世界!

(堀江罪子役の声優を堀江美都子さんにやってもらったことについて)
「いやー、『私がやるしかない』って思ってくれたんだと思う。でもそういうわがままが通ったところにみなさんのおかげを感じますね。堀江さん、ラストの罪子が霞の細胞を抱き締めるシーンで感動してくれたみたい」

「(アフレコのときは)気持ちは『オペラ座の怪人』ですよ」

「廃墟の街で、おぞましい怪獣に囲まれている罪子は本当に可憐だよ。プリンセスはお城の中にいるより、ガレキの街にいるほうが目立つんだよね」

「覚悟が重傷を負って寿命が2分しかなくなった時に4分になるところ、あれ、マジで描いてるんです。すごく科学的なの、俺の中でね」

(最終決戦の緊張感について)
「もう、特攻作戦だと思ってやってましたから。『覚悟』を始める前に、うちのスタッフ全員に彼女いるかいないか聞いて、いないのを確認してからやってるんですね。みんな特攻隊員のつもりだったんですよ。みんながそういう気持ちだったから迫力のあるマンガが描けたかなって。仕事場で除夜の鐘を聞いたし。クリスマスも遊ばせなかったし」

(単行本の大量加筆について)
「全百話って決めたときに、最終巻が40ページ余らせれるとわかって、書き足したいことがあったんで。おまけをつけるのも大事なことなんです。あとがきで堀江美都子さんの事も書いたし。とにかく俺はあれを書きたかったから。オーバーに言えば、あのひとことのために作ったマンガだったから。なんもなしにパッと『かけがえのない人』って書けないでしょう?それは変なファンレターじゃない?あれはひと仕事して、『覚悟』描いて初めて、相手に送る礼にかなうかなって」

(師匠の小池一夫にあこがれているという話から)
「あこがれているものや人がある人はもう大丈夫だと思うな、どんな世界でもね」

「自分に嘘をつかないでいちばん好きなものをいちばん好きという勇気が道を切り拓くよ。あこがれるためには自分があんまり好きじゃダメ。自分が嫌いなくらいがいい。自分が嫌いな人って病的にあこがれるじゃない?俺が堀江さんに向ける愛情とか、ちょっとヤバいじゃない?あいだにクッションしてくれた人たちがいたおかげでなんとか無事にすんだ」

・・・若先生万歳!

人間の感情が極端にはしるところに残酷はうまれる。
シグルイ一巻巻末「残酷について」より・南條範夫