さよならテリー・ザ・キッド

おとなをからかっちゃいけないよ

「とくお組 まんじゅう」

http://www.tokuo-gumi.com/

公式サイトに、ヘタなテキストサイトより面白いコラムが載っている社会人劇団、「とくお組」。お芝居は見たことがないけれど、見に行った人が会場で買ってきた映像作品集のDVD(¥700)を借りたので見てみたよ。

ちなみにパッケージ裏に書いてあるレコメンド文が、こんな。


「感動系って本当は苦手なんですよね。でもこれは素直に楽しめたっていうか泣かされたっていうか。本当、止まらなかったんですよね、涙が。前半の宇宙人との交流ではほほえましいシーンばかりで笑顔だったのですが、途中からは涙が止まりませんでした。
大人と戦う子供達、隔離からの救出、そして別れ…。
やっぱり名作なんですね。もちろん、有名な自転車で空を飛ぶシーンも最高に良かったです。
一番大好きな作品ですね。E.T。
長塚俊太郎(とくお組制作)」


E.Tの話かよ!いま関係ないよ!最後まで真面目に読んじゃったよ!

という感じで機先を制されたままDVDを見る。

まあ今後見る機会のある人もあんまりいないだろうからネタバレします。

作品中、いちばん面白かったのが「劇的ビフォーアフター」。
タイトルどおり、テレビ朝日ビフォーアフター」のパロディ。パロディっつうか、ロゴとか音楽そのまんま使ってたけど。

部屋が狭いのでなんとかしたいという依頼。実際に劇団員の部屋なんだろう、アパートのワンルームを改造することに。

まあ普通のアパートだから特に問題ないように見えるんだけど、
「ちらかっているので片付けたい」
「4畳しかない床を広々と使って寝たい」
「使ってないパソコンとミニコンポが邪魔」
「洗濯物を干すスペースがなく、部屋に干している洋服を取ろうとして落としてしまったらその下にいる人が危険」
「風呂場に入る時の段差(10センチぐらい)が危険」
等の、後半なんか単なるいちゃもんとしか思えない「お悩み」が次々と紹介されていく。
しまいには「依頼者唯一の趣味といえるハムも収納する場所がなく、この通り」とのナレーションで、ハムが一枚一枚バラバラに洗濯物と一緒に干されている映像。もちろんツッコミ等は無しで、終始あの番組特有の悲しい音楽と暗いナレーションのみの為、大変シュールな映像に。

そこに「空間の魔術師」と呼ばれる「匠」が登場。どう見ても若い劇団員なのに「一級建築師 48歳」というテロップ。

匠は現場検証を終えると、部屋の荷物をいったん外に全部出す。

そしてリフォームに。匠が意味なく気が狂ったように洗濯物やCDを散らかす映像に
「匠が何かを思いついたようです」
「依頼者も驚愕の表情」
という淡々としたお決まりのナレーションがあったりして終了。

リフォーム後がまためちゃくちゃで、冷蔵庫を本棚にしたり、洗面台をキッチンに改造したり、「玄関が狭い」という理由で窓を無理矢理に玄関に改造したりの空間マジックぶり。
そして
「おっぱいが大好きな依頼者の為に玄関に風船を飾り、いつでもおっぱいが思い出せる抜群の配慮」
「洋服はビニール袋に入れ、お湯を張った浴槽に沈めることでクローゼット代わりに。お風呂からあがるとすぐ着替えが取り出せて一石二鳥」
と無茶なリフォームが続く中、唐突に
「使わなくなったパソコンが、なんと2台に」
という映像も挟まれる。いやいや、他のは無理な理由づけあったのに、なんで無意味に説明なしにパソコン増えたんだ。笑った。ここだけ意味なさすぎる。
もうひとつの無用の長物扱いされていたミニコンポは、「なんということでしょう!ハム入れに」。「ハム入れ」と言われても困るけど、コンポのCDを入れる部分にきっちりとハムが納まってた。一枚しか入らないけど。前半の「ハムの起き場所がない」という悩みを単なるシュールとしかとらえてなかったけど、まさかここでコンポと繋がるとは。見てた僕も驚愕の表情。というか先にコンポにハムを入れるのを決めてから無理矢理お悩みにしたんだろうなあ。

さらに映像は続き、広くなった床に広々と布団を敷いて、寝ながらテレビを見る依頼者、しかしカメラを移動させていくとどうも様子がおかしい。あれ、匠が横向きに座っている?………なんということでしょう!匠が横になっているのではなく、依頼者は壁に張りつけた布団の中で立っているだけなのに、カメラを横向きにして寝ているように見せているのでした。テレビや冷蔵庫も横向きに置き、リモコンや目覚まし時計はわざわざ壁に張りつけてある。これで本来の床部分は広く使える、って馬鹿!くだらなすぎる。空間マジックじゃなくて映像マジックだし。
そして最後は「テレビを見ながらの晩酌も実現可能となったのです」ということでビールを飲むんだけど、横向きなので当然こぼれるのだった。

無茶なアイデアと、それを実現するために手間ヒマをかけて部屋を犠牲にする姿勢とにかく素晴らしかった。全部で15分ぐらいの映像なのに。「全力で馬鹿なことをやる」てのはおもしろいものの基本にして究極だと思った。失礼だけどあんまり有名とは言えない人達にも頑張ってる人がいるのだなーという忘れがちなことに感動したので、週末のコントライブに行ってみようと思います。